人間から環境への作用(自発性)と環境から人間への作用(切実性)の双方をいかし、バランスをとることが大事です。
国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています(注)。異色の建築家・安藤忠雄がいかに生き、いかに創り、どこに向かおうとしているのか、挑戦の軌跡と未来への展望を多数の模型や映像をつかって紹介しています。


プロローグ  建築家 安藤忠雄
セクション1 原点/住まい
セクション2 光
セクション3 余白の空間
セクション4 場所を読む
セクション5 あるものを生かしてないものをつくる
セクション6 育てる


会場では、安藤忠雄さんによるギャラリートークが多数回開催されていて、わたしも話を2回きくことができました。


展覧会のカタログは、諸々の経費がかかっているので 3000 円 ぐらいで通常は売っているときかされましたが、それではたかすぎる。来館者のために 1980 円 で販売できないだろうか。そこで当初は予定していなかったちかくの印刷所に話をもっていったら、1冊 760 円でできるということになって、1980 円で売れる可能性がでてきました。

そしてできるだけ多くの来館者に買ってもらうために、とても大変なことですが、すべてのカタログに自筆サインをいれることにしました。事務所のスタッフからは、「サインのパターンを3通りにできないでしょうか」という提案がありました。すると3冊かっていく人が結構いるんですね。こうしてカタログは異例の売れゆきになり、増刷をかさね、1980 円 でも黒字にすることができました。

建築とおなじで、物事は、このように合理的にくみたてなければなりません。条件をただうけいれて実行するのではなくて。


時間がきたので司会者がおわりにしようとしたら、安藤さんは、「会場からも何か質問があるでしょう」といって来館者からの質問に丁寧にこたえていました。今回、肉声にはじめてふれて安藤さんの人柄をしり、うつわのとても大きい人だと感じました。

サイン会もやっていました。ひとりひとりの名前をきいて、その人の名前いりでサインをしていました。サインをもとめる人々が長蛇の列をつくっていました。すさまじいファンサービスだなとおもいました。

印象にのこった言葉は、「人があつまるところをつくる」と「ここにしかないものをつくる」でした。美術館でも、会社でも、建築でも。




建築物をつくるとき、人間の意志だけでつくるのではなく、環境からの条件・作用も考慮して、それにあわせてつくります。あるいはあわせざるをえません。人間は、みずからの意志によって環境にはたらきかけますが、一方で環境は、人間にたえず作用をあたえています。これら両者の相互作用をいかすことにより、人があつまるところがつくれ、ここにしかないものができあがります。

こうして人間は、環境(典型的には自然環境)に直接するのではなく、建築物を介して環境とかかわりをもてるようになります。人間は環境にはたらきかけ、環境は人間に作用をあたえる、これらの相互作用がいかされるのであり、双方のバランスがうまくとれたときに人間と建築と環境が調和し、みごとな景観がうまれます。

171125 建築
図1 人間と建築と環境の調和のモデル


人間から環境への作用には自発性があり、その逆の環境から人間への作用には切実性があります。けっきょく、自発性と切実性の両方が創造には必要だということでしょう。ここで、自発性はアウトプット、切実性はインプットといいかえてもよいとおもいます。すると人間は、情報処理の主体ということになります。

  • 人間から環境への作用(人間→環境):自発性、アウトプット
  • 環境から人間への作用(環境→人間):切実性、インプット


▼ 注
特設サイト
会場:国立新美術館(企画展示会 1E)
会期:2017年9月27日〜 12月18日