里山と照葉樹林に注目すると、日本の原風景や自然環境に関する理解がすすみます。
浜口哲一監修『理科の地図帳〈4〉植物』(ポプラ社)は、日本の森林・湿原・外来植物などのようすを地図をみて理解しようという本です。
わたしは、日本の原風景を特徴づけるものとして里山と照葉樹林に注目しました。
わたしは、日本の原風景を特徴づけるものとして里山と照葉樹林に注目しました。
里山は、長年にわたって人の手がくわえられた結果できあがった地帯です。人が管理する森林と、それらと混在する農地・溜池・草原などで構成され、たくさんの昆虫や動物も生息する地帯となっています。それぞれの地域ごとに気候がことなるので、そこの植物もことなり、里山の風景もことなってきます。どこにどんな風景がひろがるかは偶然ではなく必然であり、理由があります。里山の風景にはつぎの6タイプがあります。
- ミズナラ林タイプ
- コナラ林東日本タイプ
- コナラ林西日本タイプ
- アカマツ林タイプ
- シイ・カシ萌芽林タイプ
- その他(シラカンバなど)
また照葉樹とは、シイ類・カシ類・タブ類などの常緑広葉樹であり、ロウのような膜が葉の表面にあるため、葉の照りがつよい樹木のことです。これは、冬の乾燥から葉をまもるためだとかんがえられています。シイ類やカシ類にはドングリができますが、タブノキ・ツバキなどにはドングリはできません。
常緑広葉樹は熱帯から温帯に生えますが、温帯では、夏に雨の少ない地域にはえる硬葉樹と、夏に雨の多い地域に生える照葉樹があります。日本では、常緑広葉樹林の多くは照葉樹林でした。照葉樹林があったとおもわれる地域の多くは、人間が市街地や農地などにしてしまったため、現在では、離島や傾斜地など、利用しづらい場所などにのこるだけです。
そんななかで、宮崎県にある大森岳南東にひろがる照葉樹林は、面積は約 1700 ha 、日本最大の規模です。シイ・カシ・タブ類を中心に 60 種類以上の植物が生えています。
本書では、里山や照葉樹林のタイプのちがいを日本地図上にあらわしていますが、一方で、グラフをつかってとらえなおしをしています。
植物の「垂直分布と水平分布」(図1)をみれば、本州では高山でしかみれれない樹木が、北海道では低山でみられることがはっきりわかります。たとえば中部地方で丘陵から高山まであるけば、日本列島を南から北へあるいたのとおなじ変化がたのしめます。おなじことはもっと大きなスケールでも可能で、たとえばヒマラヤ山脈をふもとから高所まであるけば、地球を、赤道ちかくから極地まであるいたのとおなじような変化がみられます。
図1 植物の垂直分布と水平分布
(出展:浜口哲一監修『理科の地図帳〈4〉植物』ポプラ社)
(出展:浜口哲一監修『理科の地図帳〈4〉植物』ポプラ社)
このような植物の分布から、気候帯というやや抽象的な概念が容易に理解できるようになります。また気候帯から植物を類推し、風景を想像することもできます。
図2は、年平均気温と年降水量の関係をしめしたグラフです。それぞれの植物帯がみごとに分類できます。いいかえると気候や環境をとらえるときの要素として気温と降水量が非常に重要だということです。日本は、照葉樹林帯に属することがわかります。
図2 年平均気温と年降水量の関係
(出展:浜口哲一監修『理科の地図帳〈4〉植物』ポプラ社)
日本の原風景や自然環境を理解し、環境保全をすすめるうえで、里山と照葉樹林は重要なキーになります。これらに今後とも注目していきたいとおもいます。
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