事実をふまえて仮説をたて、実験をして検証します。
3万年前の航海 徹底再現」プロジェクト(国立科学博物館・国立台湾史前文化博物館の共同プロジェクト、注1)をご存じでしょうか。最初の日本列島人はどこからやって来たのか? どのようにして海をこえたのか? 当時の様子を実際に再現して検証しようというプロジェクトです。テレビやラジオでも報道されているので聞いたことがある方もいるとおもいます。

わたしは先日、国立科学博物館で、プロジェクト代表者の海部陽介さん(国立科学博物館人類研究部)の講演をきく機会がありました(注2)。

今までに、以下のような事実がわかっているそうです。

  • 日本列島では、旧石器時代(縄文時代の前の時代)の人類遺跡が1万基以上みつかっている。
  • 琉球列島でみつかっている人類遺跡は、3万5000〜3万年前以後のものであり、それ以前のものは存在せず、この時期に突如として出現しはじめる。
  • 日本列島の本州では、3万8000年前に、伊豆の島から黒曜石をはこびこんでいた証拠がある。
  • 沖縄で、世界最古の釣り針が発見された。
  • 3〜4万年前は氷期であり、海水面は今よりも約80メートル低かった。
  • 3〜4万年前は海水面が低かったため、大陸と台湾は陸つづきだった。
  • 3〜4万年前は海水面が低かったが、琉球列島は、周囲の水深が深いので、大陸から海でへだてられていた。
  • 海底地質の調査から、およそ3万年まえにも今と同様な黒潮がながれていたことがわかった。


これらの事実(データ)からつぎの仮説がたてられます。
 
  • 3〜4万年前に人類の海洋進出が本格化、海をわたって島々へたどりつく航海術が発達し、琉球列島にも大陸から人類がわたったきたのではないだろうか。
  • 琉球列島へ到達した人々は、黒潮の流れをのりこえる航海術をもっていたのではないだろうか。
  • 船の素材は、台湾付近で手にはいる草・竹・木のどれかだったのではないだろうか。
  • 縄文時代・弥生時代においても帆をつかった航海の証拠がないので、縄文時代よりも前の旧跡時代の舟は漕ぎ舟であったのではないだろうか。


これらの仮説がただしいかどうか? 実際に航海をしてたしかめようということです。「航海実験」です。

昨年(2016年)には、与那国島に自生しているヒメガマという草を、ツル植物でしばって舟をつくり、西表島をめざしました。しかし普段の倍につよまっていた黒潮にながされ、航海途中で断念を余儀なくされました。実験失敗です。黒潮をこえるもっと高度な技術が必要なことがわかりました。

今年(2017年)には、竹の舟を台湾でつくり実験航海をおこないました。しかし期待したほど速度があがらず、黒潮をこえるにはデザイン上の問題があることがわかりました。

今後(2018、2019年)には、草と竹にくわえて丸木舟の実験もおこないます。台湾から与那国島への航海を再現することを最終目標にします。


 

上記の事例は、事実をふまえて仮説をたて、実験をして検証するという方法です。仮説とは、事実(データ)にもとづいて、「○○ではないだろうか」とうちだすことです。そしてその仮説は実験によって検証されます。机上の空論におわらせないためには実験が必要です。この〈仮説→実験〉というやり方は科学的な方法であり、あらゆる課題についてつかえます。

今すすめられている航海実験は、自然人類学では世界初となる、危険をともなう大規模な実験です。先祖たちの海への挑戦がどのようなものだったのか、興味がつきません。
 


▼ 注2
大学生のための自然史講座「博物館で知る自然史 〜日本列島を中心に〜」(第12回)