観察・観測手段をふやし多様化するとバランスのいい適切な情報処理がすすみ、認識がふかまります。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2017年12月号では、「重力波天文学」を特集しています。2017年のノーベル物理学賞は、史上初の重力波観測に大きな貢献をしたアメリカの3人の研究者に授与されました。



アインシュタイン(1879〜1955)は、1915年から1916年にかけて発表した「一般相対性理論」の中で、「重力とは、時空(時間と空間)のゆがみが生みだすものだ」と説明した。そこに存在する物質の質量が大きければ大きいほど、その周囲の時空のゆがみが大きくなり、重力も強くなるのだという。(中略)

一般相対性理論によると、質量をもった物質がゆれ動くと、それにともなって周囲の空間のゆがみも変化して、空間が伸び縮みする。この伸び縮みは、波として周囲に広がっていく。この波こそが、重力波である。

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アメリカの重力波観測装置「LIGO」(ライゴ)が観測した重力波は、2つのブラックホールが衝突して合体したことで発生したものであったことがわかりました。また観測された空間のゆがみの大きさから、重力波を発生させた天体は、地球から約13億光年の距離にあることもわかりました。

これまでの宇宙観測は、可視光にはじまり、電波や赤外線・紫外線・X線・ガンマ線といった電磁波によってすすめられてきました。1987年、そこにニュートリノという素粒子をもちいた観測がくわわり、「ニュートリノ天文学」が開拓されました。そして今回、重力波をもちいた観測がはじまり「重力波天文学」が幕をあけました。こうして、電磁波・ニュートリノ・重力波という3種類の観測手段によって宇宙を研究できるようになり、「マルチメッセンジャー天文学」の時代がはじまりました。

かつて可視光(目)だけにたよって宇宙を見ていたときとはくらべものにならないほど情報量がふえ、宇宙の認識は劇的にふかまりつつあります。

人間は、観察や観測によって情報を内面にとりいれ(インプット)、それらの情報を処理して(プロセシング)、認識をふかめていきます。つまり情報処理をおこなっています。情報処理は、「インプット→プロセシング→アウトプット」ということであり、この過程は基本的にインプットに依存しています。

たとえばインプットされる情報がかたよったものであったならば、そのごのプロセシングがどれだけすぐれていても、アウトプットもかたよったくだらないものになってしまいます。しかしバランスよくマルチにインプットできれば、その後の過程もみのりおおいものになります。観察・観測手段が多様化することはとてもいいことです。

これとおなじで、わたしたちひとりひとりも、特定の感覚器官にたよりすぎることなく、目・耳・鼻・舌・皮膚・筋肉・関節・内臓などの感覚器官をバランスよくマルチでつかって情報をインプットしたほうがいいのです。感覚器官のかたよったつかいかたはまさに偏見をもたらします。学校の教育者などもこのことにはやく気がつき、かたよりを解消する努力をすべきです。

「マルチメッセンジャー天文学」ならぬ「マルチメッセンジャー情報処理」がもとめられているのです。


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▼ 参考文献
『Newton』(2017年12月号)、ニュートンプレス、2017年12月7日発行