メッセージや さししめす先を感じとるようにするとよいでしょう。音声ガイドや図録・解説書も参考になります。
興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」が東京国立博物館で開催されています(注1)。運慶ゆかりの興福寺の中金堂が 2018 年に約 300 年ぶりに再建されるのを記念し、仏像など 22 体が一挙に展示される史上最大の「運慶」展です。


第1章 運慶を生んだ系譜 ー康慶から運慶へ
第2章 運慶の彫刻 ーその独創性
第3章 運慶風の展開 ー運慶の息子と周辺の仏師


おおくの仏像が 360 度の角度からの観賞が可能になっており、お寺に行ってもなかなかえられない貴重な体験をすることができます。造形のリアリティを細部まで堪能することができます。

とくに印象にのこったのは、無著菩薩立像・世親菩薩立像(むじゃくぼさつりゅうぞう・せしんぼさつりゅうぞう)です。興福寺・北円堂からおでましになりました。無著が兄、世親が弟であり、これら兄弟の立像は、老年と壮年、静と動につくりわけられていて、高さ2メートルにせまる巨体に厚手の衣をつけ、ふかい精神性をあらわしています。運慶の代表作(注2)であるだけでなく、日本肖像彫刻の最高傑作とされています。

無著・世親兄弟は、紀元4-5世紀頃、古代インドでヨーガ行者からおこった「唯識思想」を組織体系化しました。2人がのこした唯識の経典は、7世紀に、玄奘(三蔵法師)が中国へもちかえりって漢訳しました。それが、飛鳥・奈良時代に日本につたわり、興福寺・元興寺を中心にして日本各地にひろまりました。

無著と世親は、「存在するのは心だけである」とかんがえ、その心は「表層心と深層心」からなりたち、深層から心を変革すれば自分が世界がかわるとおしえました。またこのおしえは、科学と哲学と宗教の3つの要素をかねそなえた普遍的な思想体系でもありました。

このようなことから、科学と哲学と宗教を明確に分類して分析的に処理する西洋文明と、これらを一体的にとりあつかって総合的に実践する東洋文明とのちがいをよみとることもできます。

それぞれの仏像は何かをかたりかけています。そのメッセージや さししめす先を感じとるようにするとおもしろいかもしれません。会場でかしてくれる音声ガイドや販売している図録・解説書なども参考になります。 


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▼ 注1:興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」
東京国立博物館のサイト
特設サイト
会期:2017年9月26日~11月26日
※ 撮影は許可されていませんでした。
※ 音声ガイドは有料(520円)です。

▼ 注2
正確には運慶工房の代表作。運慶の指導のもとに無著像は運助、世親像は運賀が担当したことが知られます。
興福寺のサイト

▼ 参考文献
横山紘一著『NHK こころの時代 -宗教・人生-  唯識に生きる』NHK出版、2017年4月1日