アーレントは、全体主義は「国家」でなく「運動」だといっています。それはいわば台風のようなものです。そして誰もがアイヒマンになる可能性をもっています。
NHK・Eテレ「100 de 名著」で今月は、ハンナ=アーレント『全体主義の起源』を解説しています(注)。指南役は、金沢大学教授・仲正昌樹さんです。

ハンナ=アーレントは、ナチスによる迫害をのがれてアメリカに亡命したユダヤ系ドイツ人です。この時期にこの本がとりあげられたのは、アメリカにおけるトランプ大統領の選出、日本における「一強」政治が背景にあるのではないかとおもわれます。



第1回 異分子排除のメカニズム
第2回 帝国主義が生んだ「人種思想」
第3回 「世界観」が大衆を動員する
第4回 悪は「陳腐」である


アーレントは、全体主義は「国家」でなく「運動」だといっています。それはいわば台風のようなものです。いったん形成されると、成長しながら特定の方向に移動していきます。そしてその「台風の目」にいたのがヒトラーでした。

大衆は、そのような「運動体」になりえます。それは、あたかも巨大な一人の人間であるかのようにふるまいはじめます。そこには重心が形成されています。

大衆のなかに潜在するその重心をうまくつかまえる特別な能力をもった政治家あるいは軍人が、いつの時代でもどの地域でもあらわれます。彼は、単純明快でわかりやすいキャッチフレーズを連発します。

このようにみてくると、その「運動」は、かならずしも言葉の力によるものではありません。言葉は手段です。潜在する重心の方に注目することが重要でしょう。

番組最終回は、『エルサレムのアイヒマン』です。アイヒマンは、強制収容所や絶滅収容所にユダヤ人を移送して管理する部門で実務をとりしきっていたナチス親衛隊の中佐でした。

平凡な人が、普通の人が、誰もがアイヒマンになりうることに気がつかなければなりません。それどころか大衆が「アイヒマン」になる可能性があるのです。防止策のひとつとしては、対立軸をつねにつくっておくという方法があげられるでしょう。

今回の番組とテキストは、ナチス・ドイツをレビューするいい機会にもなっています。テキストの注もしっかりよむとよいでしょう。とてもよくできています。


▼ 参考文献
仲正昌樹著・NHK編『100 de 名著 2017年9月』(ハンナ・アーレント『全体主義の起原』) NHK出版、2017年8月25日