依存症は、道徳心の欠如が原因ではなく、脳の「報酬系」に異常が生じた病気です。脳の仕組みの一面を理解することが大事です。
『ナショナル ジオグラフィック日本版』(2017年9月号)では「脳科学で克服する依存症」について特集しています。




今では、多くの科学者が、依存症を引き起こすのはアルコールやたばこ、薬物だけではないという見解をもつようになった。

米シカゴ大学病院の依存・強迫・衝動性障害クリニックの医長を務めるジョン・グラントは、インターネト依存も障害と見なしている。買い物やセックス、食品への依存、万引きをやめられない状態もそうだ。「過大な報酬や多幸感、安らぎをもたらすものはすべて依存性があります」とグラントは言う。ただし、依存しやすいかどうかは個人差があるという。


現代医学では、依存症は、道徳心の欠如が原因ではなく、病気であるとかんがえ、「おぼれる人々」をすくうための治療法が研究されています。

人間の脳には、はげしい欲求をうみだす回路「報酬系」があるので、人間は、報酬にとても敏感に反応するといいます。報酬があるかどうか?「これは進化がもたらした特徴」であるとかんがえられ、人間だけでなくほかの動物にも報酬系があることは、水族館や動物園などの動物ショーをみればあきらかでしょう。

最近の研究では、脳の報酬系には、渇望と快感とでことなるメカニズムがあることがわかってきました。渇望は、神経伝達物質のドーパミンによってひきおこされ、快感は、「快楽のホットスポット」とよばれる複数の部位で、ほかの神経伝達物質によってもたらされます。渇望の回路が、これらの部位をのっとると依存症になり、快感がえられなくても、特定の異常行動をくりかえしたり、薬物をおいもとめたりするようになってしまうといいます。

依存症の治療には2つのかんがえ方があり、ひとつは、脳内の化学物質のバランスを改善する薬物療法や脳内ネットワークを修復する治療法です。もうひとつは、「マインドフルネス」などの心理療法を中心にすえた治療法です。

患者の「声」にはつぎのようなものがあります。


自分の意志が弱いから酒におぼれるのだとずっと思っていたので、病気だと理解しただけで、とても救われたんです。

一番感動したのは、脳は自己修復できるということ。ものすごく勇気づけられました。




依存症を道徳論で解釈するのではなく、科学・医学のメスをいれて研究し治療するようになったのが近年の進歩です。またアルコールや薬物だけでなく、ギャンブル・インターネット・買い物・ジャンクフード・セックスそのほかでも依存症になって、特定の異常行動や壊滅的行動をくりかえす人々がおり、これらの人々もみな病気であることがあきらかになりました。患者は、医学的に治療されなければなりません。

報酬系に関する説明は大変興味ぶかく、今回の記事をよんでいると依存症のこともわかりますが、脳の仕組みの一面を理解することができます。ぜひ知っておきたい内容です。

人間や動物が報酬をもとめるのは一般的かもしれません。しかし一方で、報酬をもとめない人々もいる、報酬をもとめない行為もあるのではないでしょうか。この点については、問題意識をもって今後とも注意していきたいとおもいます。


▼ 参考文献
ナショナルジオグラフィック編集部『ナショナル ジオグラフィック日本版』(2017年9月号)、日経ナショナルジオグラフィック社、2017年8月30日