ES 細胞だけでなく iPS 細胞にも倫理問題があります。山中伸弥博士らの発言に今後とも注意していかなければなりません。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』(2017年10月号)の連載「再生医学の最前線」(第2回)の「実用化へと進む多彩な幹細胞」では、ノーベル賞受賞者・山中伸弥博士のインタビュー記事が掲載されています。



iPS 細胞やゲノム編集などいろいろな技術がありますが、どこまで研究していいのか、どこまでヒトに応用していいのかということを、だれが決めるのかというのは非常に大きな問題です。研究者だけでは決められませんし、その恩恵を受けるかもしれない患者さんやそのご家族だけでも決められません。一般の方の意見も必要ですし、あと政治の方、生命倫理の専門家など、いろいろなヒトの意見を集約していかざるをえないんです。そういう意見を集約することは本当に困難です。


たとえばイモリは足を切断しても、また足がはえてきます。これとおなじようにヒトも、事故などで手足を切断しても、手足が再生できたらどんなにいいか。誰もが想像します。それを実現しようとするのが再生医療です。

しかし受精卵をこわしてつくられる ES 細胞には倫理問題があります。ヒトの受精卵をつかうことに反対する人々がいます。

そこで人間の皮膚や血液などの細胞を初期化して受精卵にちかい状態にもどすという iPS 細胞が開発されました。しかしこの iPS 細胞から受精卵ができてしまう可能性があるのです。したがって iPS 細胞にも倫理問題があることにはかわりありません。

けっきょく、この問題がまったく解決されないまま研究開発と実用化がすすめられています。

将来、いったいどんなヒトが生まれてくるのでしょうか。 その "ヒト" は人間とよべるのでしょうか。人類の一種なのでしょうか。

まず第一に必要なことは、再生医療技術が悪用されないように条件をととのえることでしょう。たとえば物理学では、研究成果が応用・悪用されて原子爆弾や原子力発電所がつくられたという歴史があります。大きな被害がでるまえに何とかしなければなりません。科学・医学の応用には "光" だけでなく "影" の部分があります。

山中さんの記事はよんでおくべきであり、また彼らの今後の発言に誰もが注意していかなければなりません。


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再生医療の現状を知る -「iPS細胞はどこまで来たか」(Newton 2017.9号)-

▼ 参考文献
『Newton』(2017年10月号)ニュートンプレス、2017年10月7日