共感覚者と共感覚について知ることは、人間の情報処理の仕組みをよりふかく理解することにつながります。
音を聞いて色を感じたり、文字を見て色がついて見える感覚を「共感覚」といいます。共感覚をもっている人は人間全体の4〜5%程度、文字や数字に色を感じる「色字共感覚」をもつ人は人間全体の1〜2%程度いるという調査結果があります。

人間は、目から光(電磁波)をとりいれ、それが電気信号に変換されて脳におくられ、それを脳が処理すると色が生じます。波長のちがいがあるだけで電磁波には色はついておらず、色は脳がつくりだしています。あるいは耳が空気振動をとらえると、それが電気信号に変換されて脳におくられ、それを脳が処理して音が生じます。

普通の人は、光(色)を処理する回路(色覚のルート)と、空気振動(音)を処理する回路(聴覚のルート)とは分離されていますが、共感覚の人は、これらの処理回路が自由につながっているのではないかとかんがえられています。

20世紀のはじめには、芸術家には共感覚者が多いとかんがえられていました。しかし人間はみな、潜在的な共感覚者の可能性があります。たとえばつぎのような実験があります。
 

  1. 「ブーバ」と「キキ」という2つの音声を聞きます。
  2. 丸っこい図形ととがったギザギザの図形を見ます。
  3. 音声と図形を対応させてみてください。


世界中のどんな言語をもちいる人でもつぎのように対応させるという結果がでています。
  • ブーバ:丸っこい図形
  • キキ:とがったギザギザの図形

対応させるだけでなく、丸いものが肌にあたったり、とがったものが肌にチクリときたように感じる人もいます。あるいは「ブーバ」と聞いてほっとしたり、「キキ」と聞いてぞくっとしたりする人もいます。ですから人や動物や物の名前の響きだけで、それを見ていなくてもイメージが生じてしまうことがあるのです。ネーミングの響きが重要です。

あるいは「あかるい色」ともいいますし「あかるい音」ともいいます。「すんだ色」ともいいますし「すんだ音」ともいいます。ことなる感覚に共通の印象を感じることは誰にでもあります。

このようなことは共感覚とまではいえず「感覚間反応」といいますが、わたしたちの脳における感覚間のつながりや、共感覚的な認知をうむ仕組みの存在を示唆する現象として興味ぶかいです。

人類のなかに共感覚者がいるのは事実です。しかし共感覚者は決して変人ではなく、普通の人から共感覚者まで連続しているとかんがえた方がよいでしょう。

共感覚者と共感覚について知ることは、人間の情報処理の仕組みをよりふかく理解するための重要な切り口のひとつになることはまちがいありません。


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▼ 参考文献
「『共感覚』からみえてくる色の世界のなぞ」milsil, 2017 No.5, 国立科学博物館, 2017年9月発行