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左:レオナルド、少女の頭部/《岩窟の聖母》の天使のための習作
右:ミケランジェロ、《レダと白鳥》の頭部のための習作
(会場内の撮影スポットのポスター、交差法で立体視ができます)
絵画と彫刻はことなりますが、三次元を表出するという点では似ています。三次元を表現することは歴史的な課題です。
レオナルド x ミケランジェロ」展が三菱一号館美術館で開催されています(注1)。ルネサンスの二大巨匠にして「宿命のライバル」、レオナルド=ダ=ヴィンチとミケランジェロ=ブオナローティがのこした素描などを見ながら、二人を対比する日本初の展覧会です。

素描は単なるラクガキではありません。それは、絵画・彫刻すべての芸術の基礎であり、芸術家の思考の軌跡です。「ネタ帳」といってもよいでしょう。

両者で、どんなところが似ていて、どんなところが違うのか、じっくり見ることができます。類比法の訓練に最適です。

メインとなる展示室は、第 II 展示室「絵画と彫刻のパラゴーネ」といってよいでしょう。パラゴーネとはイタリア語で比較の意味です。ルネサンスの人文学者のあいだでは、絵画と彫刻のどちらがすぐれているかという比較芸術論争がおこっていました。

レオナルドは、「絵画の驚くべき効果は二次元の平面に三次元の立体を表出させる点にあり、自然に則り『見えるとおり』に陰影や遠近をつけて描くことができる」とのべ、彫刻のもつ立体性に絵画が決しておとっていないと主張、彫刻家の仕事は、石材の粉まみれになる肉体的労苦のみで画家よりもおとっているとみなしました。

これに対してミケランジェロは、「絵画は浮彫の効果に近づけばそれだけ立派になり、浮彫は絵画に近づけば近づくほど悪くなり、彫刻が優れていると考えていた。しかし(中略)両者は同一の由来をもっているし、互いに仲直りをして大げさな議論は止めにしたい」とのべました。

今回の展覧会では、画家としてのレオナルド、彫刻家としてのミケランジェロが強調されています。このように見ると、画家と彫刻家、絵画と彫刻はあきらかにちがいます。

しかしながらどちらも三次元を表現しているという点では似ています。

彫刻の場合は、まさに三次元ですからわかりやすいでしょう。絵画の場合は、レオナルドがのべているように、陰影や遠近・多視点・背景をぼかすなど、さまざまな技法をつかって、平面(二次元)上に三次元を表現します。

絵画と似た技法は現代の写真でもつかわれています。たとえば背景をぼかすと奥行きが表現できて写真が立体的になります。そのために、一眼レフカメラを買う人が多いのであり、最近では、スマホのカメラでもそのような機能をもつものがではじめました。

三次元をどう表出させればよいか? さまざまな工夫があります。わたしたちが生きている空間は三次元なのですから、三次元を表現することは歴史的にみても大きな課題になっているといえるでしょう。



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ミケランジェロ《十字架を持つキリスト》
(交差法で立体視ができます、1階展示室)
ローマの貴族 メテッロ=ヴァーリの依頼による彫像ですが、顔の部分に黒いすじがあらわれたために制作途中で放棄されました。未完でしたが、17世紀の彫刻家の手で完成されました。ながく行方不明となっていましたが、2000年になって、ローマ郊外の小都市バッサーノ・ロマーノにある修道院で発見されました。(写真撮影が許可されていました。)


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最近、「3D映画」が制作されるようになりました。三次元表現にあらたな歴史がきざまれました。わたしは、『アバター』や『シン・ゴジラ』を3Dで見ました。3D映画を見るためには「3Dメガネ」をつけなければなりません。これは、スクリーンは二次元(平面)のままですが、特殊な映像をつくって、人間の視覚(左右の視差)を利用して三次元を表出させています。

人間の視覚機能をつかった三次元の表出ということでは、わたしが力をそそいでいる「ステレオ写真」もその重要な例です。これは、二次元の普通の写真を疑似的に立体的に見せかけるのとはちがい、三次元に実際に見える、三次元があらわれるという仕組みです。しかも3Dメガネなどの道具は必要なく、ちょっと練習をすれば誰でも立体視ができるようになります。また人間の情報処理システムの次元をたかめるための方法にもなっています。立体視は、三次元表現のあらたな世界をきりひらきます。是非チャレンジしてみてください。

立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 - >>



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▼ 注1
三菱一号館美術館:レオナルド x ミケランジェロ展