がん細胞は、DNA に異常が生じることによって発生します。手術療法・化学(薬物)療法・放射線療法にくわえて免疫療法がいま注目されています。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton 2017.8号』の「現代人を悩ます五大疾病」第2回は、「無秩序に増える細胞をどう抑えるか がん治療 最前線」です。




免疫系をつかさどるリンパ球の中には、がん細胞を攻撃するものがあります。それが「細胞傷害性T細胞(CTL)」です。体内の細胞は、自分自身の部品を乗せた "手" を細胞表面に出しています。同様に、CTLも "手" をもっています。そして CTL は、がん細胞の手を自分の手で "認識" し、攻撃するべき相手だと判断するのです。(中略)

CTL の中にがんの "手" を認識できる "手" の遺伝子を導入することで、がん細胞を特異的にみつけられるT細胞を人工的に作成し、ふたたび患者に戻す治療法が開発されました。

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これは「遺伝子改変T細胞療法」とよばれる「免疫療法」です。

がんの治療は、「手術療法」、「化学(薬物)療法」、「放射線療法」が標準療法でしたが、第4のがん治療としてこの「免疫療法」がいま注目されています。

手術療法では、内視鏡やロボットの開発がすすみ、最小限の切除で治療できるようになってきています。放射線治療では、がん組織に三次元的に放射線を集中照射する精密制御の技術が開発されています。また「プレシジョン・メディシン(精密医療)」によって、抗がん剤を臓器別にえらぶのではなく、遺伝子変異別に最適な薬がえらばれるようになりつつあります。




がん細胞は、細胞がもっている DNA に異常が生じることによって発生します。そして がん細胞は無秩序に分裂をくりかえしてふえていき、正常な細胞を犠牲にして臓器をこわしていきます。

つぎのような調査結果が最新の研究にあります。


  • がんを引き起こす DNA 変異の66%は、細胞分裂のときにおきる DNA 複製の際のランダムなエラーによる
  • タバコや紫外線といった環境要因による変異は29%
  • 親から受け継いだ変異は5%


免疫系をつかさどるリンパ球ががん細胞を認識すると、「アポトーシス」しなさいという "死" のメッセージをがん細胞につたえます。アポトーシスとは、みずから細胞が死ぬメカニズムのひとつです。この情報をうけとったがん細胞は、風船のごとくふくらみ、破裂し、"死" にいたります。

通常は、このようなことが体のなかでおこっているので、がん細胞はできても「がん」にはなりません。


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▼ 参考文献
『Newton 2017.8号』ニュートンプレス、2017年6月26日