報道されるニュースは情報の表面構造です。ニュースの背景、潜在構造を知ることが大事です。
『池上彰のやさしい教養講座』(日本経済新聞社)は、ニュースの背景や現代史を簡潔に解説した好著です。



1980年代にこんなエピソードがありました。当時、中国の総書記は胡耀邦氏でした。胡耀邦氏と日本の中曽根康弘首相は個人的にも仲が良く、日中の相互交流を計画するなど非常に信頼関係がありました。ところが中曽根首相が1985年(昭和60年)8月15日に靖国神社を公式参拝したことに対して、中国で胡耀邦氏が激しい批判を受けました。(中略)やがて失脚しまったのです。


この事件以来、中国の首脳たちは日本の首相とは仲良くなれなくなりました。あとになってその首相が靖国神社にもし参拝したら胡耀邦氏のように失脚してしまうからです。また「靖国神社参拝には絶対反対」と言わざるをえなくなりました。

現在、中国指導部は、インターネットの掲示板などをみて中国国内の世論をつかんでいます。共産党や政府への批判は削除してしてしまいますが、反日の意見はそのままのこります。すると反日の意見がおもな世論であるかのようになり、指導者たちは、うっかり日本と妥協したりすると国民から反発されるのではないかという恐怖心をもつようになりました。

そもそも背景には、中国には言論の自由がなく、世論調査も支持率調査もおこなわれていないということがあります。中国国民が何をかんがえているのか中国の指導者たちはわからず、共産党自身、どれだけ国民から支持されているのかもわかりません。まともな情報処理がおこなわれていないのですから、高度情報化という現代の潮流からいっても、行きづまっているといわざるをえません。




一方で、日本は韓国とも、「従軍慰安婦」や歴史認識の問題など、「不幸な歴史」が壁になって関係改善がすすんでいません。北朝鮮の問題もあります。




こうしたなかで中国は、国防予算をふやしつづけ、米軍のアジア太平洋地域での戦略に対抗してきました。領土問題にはつよい姿勢でのぞみ、海洋権益をまもり、防空識別圏をもうけました。

日米安全保障条約と米軍基地問題はあらたな段階をむかえています。日本は、平和を維持するためのコストをどうかんがえ、何を負担していけばよいのか? 国連平和維持活動(PKO)、憲法解釈を変更した集団的自衛権、普天間基地の早期移設といった話になってくるのです。自衛隊と日米同盟はこれまでとはあきらかに変わりつつあります。




テレビやウェブサイトからえれれるニュースは表面的な情報ですが、そこには大きな背景があります。背景には情報が潜在しています。そこには潜在構造があります。ニュースをきっかけにして、背景をさぐってみるとおもしろいです。

そして余裕があれば、さまざまな出来事の時系列な流れをおいかけるようにします。これが現代史の理解になり、また多様で複雑な情報の統合になります。

  • ニュース:表面構造
  • 背景:潜在構造
  • 時系列:情報の統合

このようにすれば、ニュースを表面構造(上部構造)とする情報のひとまとまり(ファイル)としてその出来事をとらえなおすことができます。そもそも出来事や事件は、すでに潜在していた何かが顕在化したものです。

『池上彰のやさしい教養講座』の最終章は「戦争のない世界を目指して」です。それまでの本書の解説、あるいは現代史はそこにむかってすすんでいきます。日本は過去に何をしてきたのか? 日本人であるならば知る責任があります。池上彰さんは、「過去を直視し、未来を切り開く知恵を出し合い、どのように不幸な歴史を乗り越えていけばよいのか。その一歩は若い次の世代に託されている」とのべています。

そのためには、なぜ、世界から戦争は無くならないのかといった問題もかんがえなくてはなりません。


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▼ 参考文献
池上彰著・日本経済新聞社編『池上彰のやさしい教養講座』(単行本)日本経済新聞社、2014年5月23日
同 日経ビジネス人文庫版、2015年11月3日