日々のニュースをきっかけにして、自分の専門外の領域でも情報処理をすすめ、情報処理能力をのばしていくことが大事です。
『池上彰のやさしい教養講座』(日本経済新聞社)は、最新のニュースから、日本と世界の現代史をまなぶための教養書です。自分の専門外のことであってもニュースは気になるものです。ニュースを知ることは、情報処理訓練(インプット→プロセシング→アウトプット)をすすめるチャンスです。




第二章(chapter 3)は、「日米安全保障条約が守るモノとは」です。


日中間で懸案事項になっている沖縄県の尖閣諸島を巡る問題について、2014年(平成26年)4月に来日したオバマ大統領は「尖閣諸島は日本の施政権下にあり、安保条約が適用される」と発言しました。(中略)

日本の施政権下にある地域で戦闘行為が起きた場合、まず、一義的には、日本政府と自衛隊が行動を起こすことになります。そして、「自衛隊の手に負えないから助けてほしい」ということになったら、米軍が出動するという順番があるのです。

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すなわち有事の際にすぐに米軍がたすけてくれるわけではないのです。基本的には自国は自国で防衛するということです。沖縄は今でもアジアの防衛拠点です。米軍普天間基地(宜野湾市)の移設、オスプレイの配備、沖縄の負担軽減、、、問題山積です。

本土にすむ日本人のなかには、「やっぱり沖縄に米軍は必要だろう」と勝手にかんがえている人が実際には多いかもしれません。しかし沖縄に住む人々にとっては「とんでもない」という話です。

日本が、平和維持のためのコストをどう負担していけばよいのか? 米軍基地問題を中心に安全保障はあらたな段階をむかえています。戦後はまだおわっていません。




本書は、各 chapter のおわりに、それぞれのテーマに関する年表を掲載しています。これがまとめとしてわかりやすいです。




高等学校や大学の教養課程までは、幅広い勉強を誰もがしなければなりません。しかし専門課程にはいったり就職したりすると、専門外のことには関心がなくなったり、あるいはいそがしくて教養をふかめるどころではないといったことになります。しかし池上彰さんは、社会にでてからじわじわと役立ってくることを、あるいは社会人として必要なことをまなびつづけることが大事であるとのべています。

本書では、情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)にはふれられていませんが、ニュースを知る(聞く、読む)ことは、自分の専門外のことで情報処理をすすめるいいチャンスです。

ニュースを聞くことは、情報を内面にインプットすることです。するとおのずと疑問が生じるとおもいます。このときにプロセシングが内面でもうはじまっています。疑問が生じれば、さらにしらべてみようということになります。専門的にしらべている時間はないですから、池上さんの著作がまずは参考になります。池上さんは、ニュースの背景にある歴史に注目するようにとアドバイスしています。そして要点や感想・アイデアなどを書きだしておきます(アウトプットします)。

このようなことをくりかえしていれば、教養勉強は、単なる知識獲得ではなくなって情報処理訓練になり、情報処理能力をたかめていくことができます。たかめた情報処理能力は専門分野でも活用していくことができるのです。ポイントは、「インプット→プロセシング→アウトプット」を意識することです。

またあたらしいアイデアや発想は、専門分野における常識、その分野の本流や中心からちょっとはずれたところから生まれてくるものです。アイデアや発想のためにも、教養を身につけて思考の幅をひろげておくことが役立ちます。

これからの時代は、受験勉強のような決まった解答をもとめる勉強ではなく、情報を消化し、みずからかんがえることが必要です。池上さんは、「学び続ける力」の重要性を指摘しています。これは、いいかえれば、知識を獲得(記憶)しているだけではなく、情報処理をつづけていく力が必要だということでしょう。


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▼ 参考文献
池上彰著・日本経済新聞社編『池上彰のやさしい教養講座』(単行本)日本経済新聞社、2014年5月23日
同 日経ビジネス人文庫版、2015年11月3日