自然界のみならず人間界においても、似ているもの(相似)を発見し、階層構造に注目すれば、フラクタルに気がつきやすくなります。
赤須孝之著『伊藤若冲製動植綵絵研究』は、知の巨人としての伊藤若冲を発見・解説した画期的な研究書です。とくにフラクタルに関する解説がすばらしいです。



フラクタルとは、全体を、部分に分解して拡大して見たときに、部分が全体と相似になっている形(構造)のことです。似ている形(相似)を発見し、そして階層構造に注目するとフラクタルに気がつきやすくなります。

  • 相似を発見する。
  • 階層構造に注目する。
  • フラクタルに気がつく。

たとえば鳥の羽毛と樹木の形(構造)はともに樹枝状であり似ています(注1)。似ているかどうかという観点にって自然界を見れば、似ているもの(相似)はいくらでも見つかります。たとえばリンゴとモモとバナナを類比すればリンゴとモモは似ているわけです。あるいは人間界でも相似はいくらでも見つかります。

相似に気がつけば相異もおのずとわかります。あるいはいくつかの似ている物のなかにも異なる点があり、異なる物のなかにも似ている点があるります。このような類比法は、情報を内面にインプットし、対象を認知し記憶するための基本的な方法としてつかえます。

そして階層構造とは、層状の重なりをもつ構造あるいはツリー構造のことです。たとえば各階が下層から積み重ねられた高層建築物や、コンピューターのファイルシステム(データベース)が階層構造になっています。生態系も階層構造になっています。階層構造を見るには、大局的な視点と局所的な視点、拡大と縮小、全体と部分といった視点移動が必要です。

相似を見つけるとき、おなじ階層内で見つけるのはやさしいでしょう。しかし階層をこえて、ことなる階層においても相似が見つかることがあります。これがフラクタルの発見になってきます。ちょっとしたおどろきがともないます。

たとえば樹木がフラクタルの好例であることはいうまでもありません。木は、全体が樹状構造になっていますが、枝や葉も樹状構造になっています。樹状構造が階層的に構築されていて、どこを切っても樹状になっています。東洋で、「部分に全体がふくまれている」というのはフラクタルから理解できます。フラクタルは自然の神秘であり自然の原理であるといえるでしょう。




類比は、誰もがすでによくやっていることだとおもいますが、自覚して実践している人はすくないのではないでしょうか。あるいはその重要性には気がついていないのではないでしょうか。

類比して相似に気がつき、階層構造に注目することによって、内面への情報のインプットやプロセシングがすすみます。認識や記憶が進展し、アウトプットもしやすくなります。たとえば旅行先で相似と階層に注目してみるとよいです。そのような問題意識をもつだけで、さまざまなことが急に見えてきます。するとフラクタルに気がつくかもしれません。フラクタルは後になってから気がつくということもあります。フラクタルが発見できれば認識の次元があがったことになります。フラクタルは高次元の認識です。

フラクタルがわかると、全体をみて部分を想像したり、部分をみて全体を想像したりすることができます。ここでいう想像とは推理といいかえてもよいでしょう。こうして類比、階層構造、推理というように、情報処理のレベルはあがっていきます。


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フラクタルを発見する - 赤須孝之著『伊藤若冲製動植綵絵研究』-

▼ 注1
赤須孝之著『伊藤若冲製動植綵絵研究』のなかでは、たとえば図19「雪中錦鶏図」を例にして、「若冲をフラクタルの発見へと導いたのは、この植物と羽毛がもつ樹枝状のフラクタル的構造の相似性だったのである。そのことを、若冲はこの画で提示しているのである」とのべています。この画では、木の枝や葉のうえに雪がつもっており、このつもった雪の形態にもフラクタルがみとめられます。そしてそもそも雪の結晶はフラクタルの好例であるのです。この画では、フラクタルにフラクタルがかさなっています。フラクタルが自然界の原理であることがしめされています。一見すると多様で複雑にみえる自然は、実は、一本の原理でなりたっているのです。

▼ 参考文献
赤須孝之著『伊藤若冲製動植綵絵研究 -描かれた形態の相似性と非合同性について-』誠文堂新光社、2017年1月11日