ヒトの脳の仕組みを知ることは、ヒトの情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の仕組みを理解することに役立ちます。
『脳とニューロン』(Newton 別冊)は、ニューロン(神経細胞)から脳の機能と仕組みを解説した最新脳科学の入門書です。
目・耳・鼻・舌・皮膚などの感覚器官をとおして環境(外界)から内面にはいってきた情報は、脳で処理されることにより、わたしたちは認知をしたり判断をしたりしています。そして脳は、おもに筋肉に信号を発信し、これによりわたしたちは運動をすることになります。
わたしたちは、出来事の場所と順序を認知することができます。大脳内の「海馬」では、場所と順序をむすびつけて整理し、その物事が、どの順番(時間)でどの場所(空間)を移動したのかということを記憶します。このような時空処理は認知と記憶の基本です。
記憶に関しては、1週間前に勉強したばかりなのにわすれてしまったことがある一方で、5年も前に一度みただけなのにはっきりおぼえていることがあります。なぜでしょう? これはずばり、「よい感情をともなう出来事はよく記憶される」ということです。これは記憶の原理のひとつといってもよく、記憶法を実践するときにたえず心がけなければならないことです。感情にふかくかかわっている「扁桃体」と、記憶の中枢である「海馬」とはおたがいに信号をおくりあっていることが知られています。
人類は、約300万年かけて感情を発達させてきました。基本的にヒトは「感情の生き物」です。だからヒトの決断は感情に大きく影響されてしまうのです。「計画を決める意志決定には、感情による "重みづけ" が必要なのです」。この「感情の生き物」に気がつくことは重大なことです。ヒトたちは、論理的で冷静な判断にもとづいてうごくわけではありません。
脳がになう大きな役割のなかには運動もあります。脳からの指令がなければ、わたしたちはあるくこともできません。大脳の表面部分の「運動領野」、脳のなかにうまっている「大脳基底核」、中脳・橋(きょう)・延髄をあわせた「脳幹」、後頭部に位置する「小脳」は体をうごかす際にはたらく代表的な部位です。1メートルに達する「運動ニューロン」をつたわって脳からの指令は筋肉におくられます。
たとえば野球のバッティングの練習を無数にくりかえしているとスムーズなスイングができるようになります。こうした「体が覚える」ことにも脳のはたらきが不可欠です。練習をくりかえしていると、空振りなどをしたときの運動誤差の情報が脳にフィードバックされ、脳からの不必要な指令が抑制され、スムーズな動きが身につくとかんがえられています。
また病気にも脳がかかわっています。たとえば酒・タバコ・ギャンブル・・・。依存症では、依存性物質を摂取していのがあたりまえの状態であると脳が認知した場合、それがないときには大きな苦痛が生じます(禁断症状)。依存症にかかると、ニューロンが刺激になれてしまい、最初とおなじ量では快感がえられなくなり、より多くの依存性物質をもとめるようになります。
ニューロンは電気信号をつたえるとてもほそながい細胞です。「大脳皮質を1立方センチメートルに切りとると、そこに含まれるニューロンの長さの合計は、なんと数キロメートルにもなる」といいます。脳内では、200億ものニューロンが複雑なネットワークをつくっています。
なおヒトの個体発生をみて、ヒトの脳の発達の様子を観察すると、脳の進化の歴史を知ることができます。個体発生と進化の面からも脳の機能をとらえなおしてみると、脳についての理解をさらにふかめることができます。
以上を、情報処理の観点から整理すると、感覚器官から環境の情報をとりいれるのはインプット、脳は、その情報を処理し(プロセシング)、信号を筋肉におくります。そしてわたしたちは運動します。たとえば足をうごかしてあるいたり、声帯を振動させて声をだしたり、手をつかって物をつくったり、文字を書いたり・・・。このような運動はアウトプットととらえることができるでしょう。〈インプット→プロセシング→アウトプット〉という一連の流がみとめられます。
本書のなかで、わたしがとくにおもしろいとおもったのは、「ヒトは感情の生き物」であるとはっきり指摘したページでした。わたしも以前から、感情的なヒトが世の中にはかなり多いとおもっていました。このことは科学的にも証明されているのです。いいかえると、基本的にはヒトは論理でうごいているのではないということです。何をするにしても、人間界を生きていくかぎりこのことを重視せざるをえません。しかしこのことに気がついていないヒトもいるのではないでしょうか。
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記憶し判断し、直観とひらめきをえる -『脳力のしくみ』(ニュートン別冊)-
記憶の仕組みとアルツハイマー病 -「アルツハイマー病 研究最前線」(Newton 2017.3号)-
くりかえしトレーニングして情報処理能力を高める - ヘッブの法則 -
▼ 参考文献
『脳とニューロン』(ニュートン別冊)2016年9月9日
ニューロンはたがいにシナプスでつながり合いながら、想像を絶するほど複雑なネットワークをつくっていることになる。このネットワークの中を電気信号が行きかうことによって、脳の活動がいとなまれている。
目・耳・鼻・舌・皮膚などの感覚器官をとおして環境(外界)から内面にはいってきた情報は、脳で処理されることにより、わたしたちは認知をしたり判断をしたりしています。そして脳は、おもに筋肉に信号を発信し、これによりわたしたちは運動をすることになります。
わたしたちは、出来事の場所と順序を認知することができます。大脳内の「海馬」では、場所と順序をむすびつけて整理し、その物事が、どの順番(時間)でどの場所(空間)を移動したのかということを記憶します。このような時空処理は認知と記憶の基本です。
記憶に関しては、1週間前に勉強したばかりなのにわすれてしまったことがある一方で、5年も前に一度みただけなのにはっきりおぼえていることがあります。なぜでしょう? これはずばり、「よい感情をともなう出来事はよく記憶される」ということです。これは記憶の原理のひとつといってもよく、記憶法を実践するときにたえず心がけなければならないことです。感情にふかくかかわっている「扁桃体」と、記憶の中枢である「海馬」とはおたがいに信号をおくりあっていることが知られています。
人類は、約300万年かけて感情を発達させてきました。基本的にヒトは「感情の生き物」です。だからヒトの決断は感情に大きく影響されてしまうのです。「計画を決める意志決定には、感情による "重みづけ" が必要なのです」。この「感情の生き物」に気がつくことは重大なことです。ヒトたちは、論理的で冷静な判断にもとづいてうごくわけではありません。
脳がになう大きな役割のなかには運動もあります。脳からの指令がなければ、わたしたちはあるくこともできません。大脳の表面部分の「運動領野」、脳のなかにうまっている「大脳基底核」、中脳・橋(きょう)・延髄をあわせた「脳幹」、後頭部に位置する「小脳」は体をうごかす際にはたらく代表的な部位です。1メートルに達する「運動ニューロン」をつたわって脳からの指令は筋肉におくられます。
たとえば野球のバッティングの練習を無数にくりかえしているとスムーズなスイングができるようになります。こうした「体が覚える」ことにも脳のはたらきが不可欠です。練習をくりかえしていると、空振りなどをしたときの運動誤差の情報が脳にフィードバックされ、脳からの不必要な指令が抑制され、スムーズな動きが身につくとかんがえられています。
また病気にも脳がかかわっています。たとえば酒・タバコ・ギャンブル・・・。依存症では、依存性物質を摂取していのがあたりまえの状態であると脳が認知した場合、それがないときには大きな苦痛が生じます(禁断症状)。依存症にかかると、ニューロンが刺激になれてしまい、最初とおなじ量では快感がえられなくなり、より多くの依存性物質をもとめるようになります。
ニューロンは電気信号をつたえるとてもほそながい細胞です。「大脳皮質を1立方センチメートルに切りとると、そこに含まれるニューロンの長さの合計は、なんと数キロメートルにもなる」といいます。脳内では、200億ものニューロンが複雑なネットワークをつくっています。
なおヒトの個体発生をみて、ヒトの脳の発達の様子を観察すると、脳の進化の歴史を知ることができます。個体発生と進化の面からも脳の機能をとらえなおしてみると、脳についての理解をさらにふかめることができます。
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以上を、情報処理の観点から整理すると、感覚器官から環境の情報をとりいれるのはインプット、脳は、その情報を処理し(プロセシング)、信号を筋肉におくります。そしてわたしたちは運動します。たとえば足をうごかしてあるいたり、声帯を振動させて声をだしたり、手をつかって物をつくったり、文字を書いたり・・・。このような運動はアウトプットととらえることができるでしょう。〈インプット→プロセシング→アウトプット〉という一連の流がみとめられます。
- インプット :感覚器官から情報をとりいれる
- プロセシング:脳が情報を処理する
- アウトプット:運動する
本書のなかで、わたしがとくにおもしろいとおもったのは、「ヒトは感情の生き物」であるとはっきり指摘したページでした。わたしも以前から、感情的なヒトが世の中にはかなり多いとおもっていました。このことは科学的にも証明されているのです。いいかえると、基本的にはヒトは論理でうごいているのではないということです。何をするにしても、人間界を生きていくかぎりこのことを重視せざるをえません。しかしこのことに気がついていないヒトもいるのではないでしょうか。
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くりかえしトレーニングして情報処理能力を高める - ヘッブの法則 -
▼ 参考文献
『脳とニューロン』(ニュートン別冊)2016年9月9日