寒帯でくらす人々は、きびしい自然環境に一方的に支配されるのではなく、自然環境をたくみに利用して生きてきました。寒帯には、寒帯独自の文化が発達しました。

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寒帯は、気候帯のなかでもっとも寒さのきびしい地域であり、ケッペンの気候区分では、「もっともあたたかい月の平均気温が 10℃ 未満」のところとされています。人間や動物は少なく、植物もあまりそだちません。

寒帯は、気温によってつぎの2つの気候にわけられます。

  • ツンドラ気候:もっともあたたかい月の平均気温が 0℃ 以上で 10℃ 未満。
  • 氷雪気候:もっともあたたかい月の平均気温が 0℃ 未満。


■ 気象災害:ブリザード
ブリザードとは、北アメリカでうまれた「はげしい吹雪」のよび名です。風がつよいために、はげしく雪がふきつけたり、風にまきあげられた雪で先がみとおせなくなります。凍傷になったり、低体温症で命をおとしたりすることもあります。


■ 寒帯の植物
ツンドラ気候の地域では、背の低い草やコケなどは生えますが背の高い樹木はそだちません。ツンドラとは、「木のない土地」という意味のロシア語やサーミ語からきた言葉だといわれており、永久凍土が地中に存在し、樹木がなく あれた土地のことをいいます。雪氷気候の地域では、樹木はまったくそだたず、わずかな草とコケ類だけがみられます。


■ 寒帯の動物
ホッキョクグマ、ホッキョクオオカミ、カリブー(トナカイ)、ジャコウウシ、ノルウェーレミング、ウミガラス、シロフクロウ、キョクアジサシ,セイウチ、アザラシ、ペンギンなど。たっぷりした毛皮やぶあつい脂肪をたくわえ、きびしい寒さに適応しています。ホッキョクグマは、熱をにがさないために内部が空洞になった毛をもちます。


■ 伝統産業
トナカイの放牧や、沿岸部ではアザラシ漁やクジラ漁がおこなわれてきました。


■ 人々のくらし
■ アメリカ・バロー(ツンドラ気候):バローは北極海に面し、アメリカ合衆国アラスカ州の最北端に位置する町です。1年をとおして寒く、冬はマイナス 25℃ ほどにさがります。5〜8月に 85 日前後の白夜が、11〜1月に 67 日前後の極夜がつづきます。バローには、先住民のイヌピアトが多くくらしています。

狩りと食:イヌピアトには生肉をたべる習慣があります。農作物がそだちにくくい寒帯では、生肉は重要なビタミン源になるからです。また年に2回、現地で消費する場合にかぎり、クジラ漁がみとめられています。このほか、アザラシやカリブー(トナカイ)の狩りや、ホッキョクイワナなどの漁がおこなわれています。

衣服:イヌピアトは、寒さから身をまもるために、アザラシやカリブーの毛皮でつくった服を着ていました。いまでは、ダウンジャケットにジーンズという人も多くなりましたが、真冬の狩りでは毛皮の服を着ることもあります。

住居:永久凍土がひろがっているため、建物の熱により凍土がとけ、床がしずんだり柱がかたむいたりすることをふせぶために、高床式の建物になっています。


■ ノルウェー・ロングイエールビエーン(ツンドラ気候):ノルウェー北方にあるスヴァールバル諸島に位置します。スヴァールバル諸島の島の多くは氷河におおわれています。16世紀ごろに存在を知られるようになり、捕鯨基地がつくられました。住居は、永久凍土が夏にとけても影響をこうむらないように、高床式になっています。2008年、地球上の種子を冷凍保存する施設「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」がつくられました。


■ アルゼンチン・ウスワイア(ツンドラ気候):ウスワイアは、南アメリカの南端にあるフエゴ島にある町です。南極大陸にもっともちかい、世界最南端の都市ともいわれます。近海や川でとれる魚介類をつかった料理がよく食べられます。


■ 昭和基地(氷雪気候):雪と氷におおわれた南極大陸は、非常に特別な装備がなければ人間は生存できない極寒の地です。

各国が探検をおこない、南極半島先端付近の陸地が19世紀のはじめに発見されて以来、南極大陸の姿があきらかになってきました。1910〜1958年には、白瀬矗を体長とする日本の調査隊もいきました。

進化論によると人類は、アフリカで誕生し、世界各地の自然環境に適応しながら拡散していきました。そして最後には南極にまで到達し、これで、地球全体に拡散したことになります。これは、人間の身体が生物学的な進化をとげたからできたということではなく、衣服や住居、道具や装備、食料生産や調理法、その他の技術がいちじるしく進歩したから可能になったことです。




このように、寒帯でくらす人々はきびしい寒帯の環境に適応し、また寒帯の環境を利用する技術を開発しながら生きてきました。

人間は、ほかの動物とはちがい、自然環境と直接しているわけではありません。まず衣服をきています。わたしたちの身体と自然環境のあいだには衣服があります。これによって、たとえば寒帯の人々は体温低下をふせいで きびしい寒さに耐えているのです。あるいは住居があります。自然環境と人間のあいだには住居があり、これによっても外からやってくる寒さをふせぎます。

食料獲得でも、狩猟の道具をつくりだしたり、放牧や耕作をおこなって食料生産性をあげたり、一方で調理法を工夫したりして環境に適応してきました。

あるいは治水・治山をおこなって自然環境の一部を改善してきました。

このように人間は、自然環境に一方的に支配されるのではなく、自然環境にはたらきかけ、それをうまく活用する工夫をしてきました。そこには、衣服・住居・道具・装備・放牧・耕作・治水・治山・その他の技術の発展がありました。これらは、端的に総称するなばら文化といってもよいでしょう。文化とは、人間と自然環境のあいだに発達するものです。寒帯には、寒帯独自の文化が発達したのです(図1)。

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図1 寒帯には、寒帯独自の文化が発達した



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▼ 参考文献
こどもくらぶ著・高橋日出男監修『気候帯でみる! 自然環境〈5〉寒帯』少年写真新聞社、2013年3月22日