炊飯の前にお米に水を浸透させ、最後に十分なむらしをするとふっくらとしたおいしいごはんが炊けます。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton 2017.6号』の「身近な "?" の科学」では「お米」について解説しています。




炊飯によってお米に水と熱が加わると、デンプンの枝と枝を密着させていた水素結合が切れる。(中略)その結果、密だったデンプンの粒子全体がふくらみ(膨潤)、お米がふっくら、やわらかになる。このような変化は「アルファ化」とよばれる(注1)。

炊飯後、お米が冷めてくると水素結合が一部で再び形成され、お米がかたくなる(ベータ化)。

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おいしくお米を炊くには、炊飯の前に、お米を水にひたして米粒の内部まで水分を浸透させるのがよいです。また炊きあがったあと、十分なむらしをすると粒立ちのあるふっくらとしたごはんになります。もっとも今日のすすんだ電気炊飯器は、「余熱→沸騰→むらし」の3段階を自動的におこない、おいしいごはんを炊いてくれます。

またお米が新鮮であるほど、デンプンや細胞壁を分解する酵素が活発にはたらくので食感や味がよいです。




世界のお米の種類にはつぎの3つがあります。


インディカ米:南アジアを中心に栽培されている。米粒は一般的に細長い。アミロペクチン(注2)の含有量は70〜80%程度で、粘り気が少ない。世界で生産されている米の多くはインディカ米。

ジャポニカ米:日本をはじめ、東アジアを中心に栽培されている。米粒は一般的に丸みを帯びた形をしている。アミロペクチンの含有量は85〜90%程度と高く、炊飯すると粘り気が出る。

ジャバニカ米:インドネシアのジャワ島など、アジアの熱帯地域を中心に栽培されている。米粒は幅広く大きい傾向にある。遺伝子解析の結果、ジャポニカ米と系統が近いことがわかっている。


日本人が食べているジャポニカ米は粘り気がつよいのに対して、南アジア〜東南アジアの人々がよく食べるインディカ米はバサバサした感じがします。ジャポニカ米にくらべてインディカ米はおいしくないとおもい、きらいだといっている日本人がいますが、決してそのようなことはなく、インディカ米でもじょうずに炊けばとてもおいしいです。わたしはネパールに住んでいたときはインディカ米を毎日たべていました。ただしお祭りのときにはネパール人もジャポニカ米を炊いていることがありました。

またどのような料理をするのか、どのようなおかずと一緒に食べるかにもよります。たとえばカレーや炒飯にはインディカ米がよくあいます。明太子でごはんを食べるというときはジャポニカ米にかぎります。

あるいは料理全体のなかで何を「主役」にするのかにもよります。ライスがひかえめの味だと、おかずが「主役」になりおかずが一段とひきたちます。ライスがおいしすぎるとライスが「主役」になり、おかずを圧倒します。料理をつくるときには全体観とバランスが重要です。

東洋はお米の文化圏であり、稲作文明圏です。ここには西洋の小麦文明圏とはちがう世界がひろがっています。お米の世界は奥深いです。お米を理解せずして東洋は理解できません。


▼ 注1
災害時などに重宝される、お湯をくわえただけで食べられる「アルファ米」は、炊飯後に急速に乾燥させ、デンプンの枝のひろがりを維持したお米です。

▼ 注2
アミロペクチンはデンプンを構成する主成分のひとつです。

▼ 引用文献