普遍学に似せようとするのではなく、人間-自然環境系の立場にたって総合的にとりくむ地球学を発展させなければなりません。
上山春平著『哲学の旅から』(朝日新聞社)は、哲学者の上山春平さんが 、40 年にわたる御自身の「哲学の旅」を回顧した本です。哲学の専門書ではなく、新聞や雑誌などに掲載された一般むけの文章を最編集したものなので、素人が読んでも理解できる内容になっています。




わたしはとくに、「II 哲学とは何か」のなかの学問の見取り図に注目しました。上山さんは、学問をつぎのように分類しています。


  • 普遍学
  • 地球学
  • 社会学
  • 自我学


普遍学とは、普遍的なこと、普遍的な法則を追究することが大きなテーマになっている分野であり、数学・物理学・化学を具体的にはさします。地球学とは、わたしたちが生存している地球に関する分野であり、地球をひとつのユニバースにしたような学問です。社会学とは、人間の社会をとりあげる学問です。自我学とはたとえば哲学のことであり、自分自身が宇宙であるようにとらえる学問です。

これらのなかで現代においてもっとも勢いがある分野は普遍学(とくに物理学)であり、ほかの学問分野は普遍学にちかづこうとしたり、普遍学に似た学問になろうと努力をしています。

たとえば地球に関する学問分野も普遍学にちかづこうとしたり、普遍学の応用をさかんにおこなっています。今日では、地球物理学・地球化学・地質学から構成される地球科学とよばれる分野がありますが、これは普遍学を模範としており、生物や人間がほとんどくみこまれていません。また地球科学と生物学(生命科学)とはことなる分野であり、別々に研究がすすめられています。


 

しかし今日、自然破壊・地球環境問題・人口爆発・自然災害・原発事故など、地球規模の大問題が多発しています。 これらは、普遍学の応用で解決できる問題ではなく、生物・人間もとりこんだひとつの体系(システム)として地球をとらえなおして研究いく姿勢が必要です。

上山さんは、このような地球学はまだ未発達であり、その発展の必要性を強調しています。またこのような地球学は普遍学と社会学との中間項であるので、地球学が発展すれば、普遍学から社会学までがスムーズにつながり、学問全体も成熟していくとかんがえています。

このようなかんがえ方はきわめて東洋的であるといえるでしょう。西洋では、自然と人間を峻別してとらえる伝統があります。自然科学と人文・社会学、理科系と文科系はことなる分野であり、別々に研究をすすめます。またその方法は分析です。これに対して東洋では、自然と人間を峻別せず、自然の体系のなかに人間もくみこんで理解しようします。そしてその方法は直観と総合です。

どんな課題でも、課題にとりくむときには、どのような思想・哲学のうえにたつかがとても重要です。今日、東洋の哲学に立脚したあらたな展開がもとめられているのではないでしょうか。これからの時代は総合的な方法がどうしても必要です。東洋流に、自然の体系のなかに人間を位置づける立場にたってこそ、グローバルな問題にとりくめます。

それではどのようにして地球学を発展させればよいか。そこで「人間-自然環境」系のモデルが役立ちます(図)。系というのシステムということです。

170412 地球学
図 人間-自然環境系のモデル


わたしたちは自然環境から情報をとりいれ(インプット)、情報を処理して(プロセシング)、技術を開発したり、環境を改善したりしています(アウトプット)。これは広義の情報処理システムとといってもよいでしょう。 鍵は情報処理にあります。これからの時代は、自然環境と調和できる技術、自然災害を軽減する技術などの開発がもとめられます。環境を改善するときにも自然との共生が必要です。

このように、人間と自然環境はセットにしてつねにとらえなければなりません。地球上のそれぞれの地域は、このモデルによってとらえなおすことができます。あるいは地球全体もこのモデルでみなおすことができます。


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▼ 参考文献
上山春平著『哲学の旅から』(朝日選書)朝日新聞社、1979年12月20日