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始祖鳥」の化石(Archaeopteryx)ジュラ紀後期(1億4700万年前)
(平行法で立体視ができます) 

始祖鳥の化石は恐竜が鳥類に進化した証拠です。常識にとらわれないで、スケールの大きな生命進化の流れをつかむことが大切です。
東京・上野の国立科学博物館で「大英自然史博物館」展が開催されています(注1)。大英自然史博物館の約8000万点の収蔵標本のなかから、世界的にも貴重な「至宝」のコレクション約370点をえりすぐり、一堂に展示するという企画です。

こられのなかで目玉になるのが「始祖鳥」化石です。

ダーウィンは、1866年に出版した『種の起源』第4版で、「トカゲのような長い尾を持ち、手にはカギツメを持つ一方で、鳥類のような翼をもつ」と始祖鳥を紹介しています。

つまり、恐竜と鳥類をつなぐ生物進化の証拠として始祖鳥をとらえたのです。

最近になって1996年以降、羽毛をもったいわゆる「羽毛恐竜」の化石がおもに中国でつぎつぎに発見され、そのなかには風切羽でできた鳥類のような翼をもったものがいたことも確認されています。恐竜や始祖鳥などの化石を系統図にプロットしていくと、どこまでが恐竜でどこからが鳥類なのか、その境界線がひけないほど恐竜から鳥類への連続的な進化があったことがあきらかになっています。

また CT スキャンをつかった始祖鳥の脳と三半規管の研究により、始祖鳥の脳は、嗅覚をつかさどる部分よりも視覚をつかさどる部分の比重が高かったこと、三半規管が発達していて平衡感覚がすぐれていたことがあきらかになりました。

爬虫類と鳥類を比較した場合、鳥類の方が体の割りに大きな脳をもち、爬虫類は嗅覚が発達しているのに対して鳥類は視覚が発達しています。

このように視覚と平衡感覚が発達していたことから、大英自然史博物館の研究者たちは、空中を羽ばたいて始祖鳥は飛ぶことができたとかんがえ、その様子をCGにしました。この動画を会場でみることができます。

こうして現在では、恐竜は完全に絶滅したのではなく、鳥類に進化したのだとおおくの古生物学者がかんがえています。

わたしたちは学校で、「恐竜は絶滅した」「恐竜は大きくなりすぎた」「恐竜の絶滅から人間は学ばなければならない」などとおそわりましたがそれは間違いだったのです。恐竜は、鳥に進化して空へ進出したのです(注2)。学校でおしえられた常識から自由になることが大事です。

生物の進化は、大きなスケールの生命の流れでみていかないと理解できません。地球生命は今日まで一度もほろんでいない、進化によって多様性を生みだしながら、一方の種がいなくなっても他方の種は生きのこってきたとかんがえることもできるのです。




今回展示されている、大英自然史博物館の始祖鳥(ロンドン標本)は2011年にタイプ標本に指定されました。タイプ標本とは、研究の基本になるもっとも重要な標本であり、あたらしい化石が発見されたり、あらたな種の同定などの研究をすすめるときにかならず比較しなければならない標本です。

今回の特別展は、このような貴重な標本をみられるまたとない機会になっています(注3)。


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(平行法で立体視ができます)


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▼ 注1
大英自然史博物館展(国立科学博物館)
大英自然史博物館展(特設サイト)
公式動画

▼ 注2
巨大隕石が地球に衝突して恐竜は絶滅したという仮説がありますが、生物の大量死はあったかもしれませんが、完全に絶滅するまでにはいたらなかったということになります。科学で大切なのは、知識を暗記することでななく、事実をしり仮説をたてるという方法です。

▼ 注3
大英自然史博物館は、これまでは英国外に標本をだしたことはなかったそうですが、今後は、世界巡回展を随時開催していく方針だそうです。その最初の巡回展が、国立科学博物館での今回の特別展です。なお2年前には、「大英博物館」(British Museum)展 は日本で開催されていました。また美術館では、「○○美術館」展はごく普通に開催されていますので、博物館の分野でもこのような巡回展がもっと開催されるようになるとよいでしょう。

▼ 参考文献
国立科学博物館・読売新聞社編集『大英自然史博物館展 図録』読売新聞社発行、2017年