残像をみて錯覚を体験すれば、人間の情報処理の仕組みがわかってきます。
白鳥敬著『定理と法則 105』(学研プラス)は「エンメルトの法則」についてもとりあげています(注1)。


エンメルトの法則:知覚する残像の大きさは、目からの残像の投影面までの距離に比例する。


イギリスの心理学者・エンメルトは残像と錯覚に関する研究をおこないました。

たとえば太陽をみて目をつむると、まるい太陽の残像がみえます。あるいは地面にうつった自分の影を目にやきつけて空をみると、やはり残像がみえます。ただし大きくみえます。地面よりずっととおくにある空に残像を投影してみたために大きく知覚されるのです。

マッカロー効果という現象もあります。赤色の縦縞模様と緑色の横縞模様をしばらくみつめてから、モノクロの縦縞・横縞の模様をみると、横縞模様は赤みがかってみえ、縦縞模様は緑がかってみえます。

これらはいずれも残像による錯視(錯覚)です。残像は錯覚につながります。錯覚には、たとえば交通事故やスポーツの誤審をひきおこすなど、のぞましくない側面がある一方、錯覚をつかったトリックアートなど、人々をたのしませる側面もあります。

しかしもっと重要なことは錯覚のおこる仕組みを知ることです。仕組みを知れば、事故や誤審をふせぐことも、アートをたのしむこともできます。

わたしたちが物を見るときには、まず、目のなかに光(光子)が入ってきます。すると網膜でそれが電気信号に変換されて、その信号が脳におくられ、それを脳が処理して三次元映像をつくりだします。これが視覚のしくみです。網膜が光をうける場面はインプット、情報を脳が処理する場面はプロセシングといってもよいでしょう。つまり、インプットとプロセシングの2つの場面によりわたしたちは外界を認知をしているのです。これと同様なことは、聴覚や嗅覚・味覚・皮膚感覚などでもおこっています。

このようにかんがえると、錯覚はどこでおこるかというと基本的には、脳の情報処理のなかでおこるといえます。錯覚は情報処理のエラーであるととらえることもできるでしょう。

残像という現象をとおして錯覚を体験し、さらに一歩すすんで、情報処理のしくみを理解すると、今まで見えなかったことまで見えてくるかもしれません。


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▼ 注1:参考文献
白鳥敬著『定理と法則 105』(人に話したくなる教養雑学シリーズ)学研プラス、2013年9月11日