創造性を発揮して、イノベーションのジレンマにおちいらないことが組織にも個人にももとめられます。成功体験をくりかえさない、過去に執着しないことが大切です。
今回は、白鳥敬著『定理と法則 105』(学研プラス)でもとりあげている「イノベーションのジレンマ」についてかんがえてみたいとおもいます。意外にも、このことに気がついていない人がけっこういるのではないでしょうか。


イノベーションのジレンマ:技術革新は次なる技術革新を拒む。


イノベーションとは革新とか刷新という意味であり、ジレンマとは2つの事柄のあいだで板挟みになる状態のことです。

たとえばソニーは、ブラウン管テレビの開発・販売でかつて大成功しましたが、次世代の液晶テレビの開発はできませんでした。かつての技術革新を次世代の技術革新にむすびつけることができず、次世代の液晶テレビの開発は新興他社が成功させました。あるいは技術革新によってCD(コンパクトディスク)を生みだしましたが、新世代のインターネット配信は新興他社が実現させました。こうしてソニーは、「イノベーションのジレンマ」におちいって衰退してしまいました。

似たような事例はいくらでもあります。パソコンやインターネットが開発されたために印刷屋はほとんどつぶれました。デジタルカメラがでてきたために写真屋もつぶれました。スマートフォンが開発されたためにニコンも経営を圧迫されています。インターネット通販が台頭してきたために・・・。

こうして1990年代から日本の多くの組織が、「イノベーションのジレンマ」によって衰退したりほろんでいきました。

現在は時代の大転換期です。時代は、工業社会から情報産業社会へ大きく移行しました。

いまでも技術革新は日々すすんでいます。人工知能やロボットの本格的な社会進出もいよいよはじまりました。10年後、20年後になくなる仕事の予想もされています。労働者にとっては死活問題です。




それでは「イノベーションのジレンマ」はどうしておこってしまうのでしょうか?

人間は、いちど成功したり勝者になるとその成功体験をくりかえそうとします。しかしそれは、あたらしい時代には通用しません。かつての成功体験はあらたな技術革新をむしろ阻害してしまうのです。イノベーションの観点からは、年の功は、役にたたないどころかかえって有害なのです。

個人の人生でも同様です。転職をせまられたり転職せざるをえなくなった人々がいます。あるいはみずからの意志で転職したり、あたらしい組織をつくったりする人もいます。人生にも転換が必要なときがあります。時代の転換期なのですから当然のことです。

そこで「イノベーションのジレンマ」に個人でもおちいらないことが大切です。過去の成功体験をくりかえさない、ふるいやり方を継続しない、ふるい組織にとらわれない、過去に執着しないといったことがポイントになるでしょう。




アメリカに、コダックという大きなフィルム会社がありました。「イノベーションのジレンマ」でこの会社も破綻しました。アメリカにも、「イノベーションのジレンマ」があります。

しかし日本の富士フィルムはそうではなく、次世代の技術革新を実現しました。ここには創造性がみられます。「イノベーションのジレンマ」は創造の本質を考察するうえでも重要です。


▼ 関連記事
日本の過去の優良企業はイノベーションのジレンマにおちいっている
ソニーからグーグルへ - 情報産業のステージへ転換 - 〜辻野晃一郎著『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』〜
ビジョンをえがき、全体をデザインし、自分らしいライフスタイルを生みだす - 映画『スティーブ・ジョブズ』-
人間は、創造的な仕事をする
シンボル化して、過去に執着しない

全体をまずとらえる - ゲシュタルト心理学 -

▼ 参考文献
白鳥敬著『定理と法則 105』(人に話したくなる教養雑学シリーズ)学研プラス、2013年9月11日 
クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』、翔泳社