科学の営みとは、〈疑問→データ→仮説→検証〉という方法をもちいて、すこしでも真理にちかづこうという過程です。この思考方法は科学以外の課題でもつかえます。
今日ほど、サイエンスあるいは理系の話を、文系の人々にもわかる言葉におきかえてはなせるコミュニケーターがもとめられている時代はありません。ジャーナリストの池上彰さんはサイエンス・コミュニケーターとしても活躍しています。




科学とは「疑うこと」から始まります。

私たちは法則や理論を「一〇〇パーセント正しい」と思いこんでしまいがちです。ところが、科学の法則や理論はそのような絶対的な真理ではないのです。

テレビ番組では「驚きの真実が明らかに!」という言い方をよく使います。(中略)私が担当する番組では「そういう言い方はしないでほしい」とお願いしています。人間の物の見方は完璧ではないのですから、一〇〇パーセント正しい真実を把握することはできません。

科学という営みでは、それぞれの学者が仮説を立て、それを検討していきます。(中略)仮説と検証を繰り返して、真理に少しでも近づこうとすることが科学という営みなのです。


このように科学とは、疑うところからはじめて、真理にちかづこうとする自然探求の営みのことです。このことを知っておかないと、科学者のいうことを鵜呑みにしたり、既存の知識を信じたり、無理に暗記したりといったまちがったことになります。

それではその営みとは具体的にどのような過程なのでしょうか。ごく簡単にいえば、疑問をもったら、データをあつめて、仮説をたてて、検証するということです。

  • 疑問
  • データ
  • 仮説
  • 検証

まず、ふと生じた疑問を大切にすることからはじまります。そのためには課題を明確にし、問題意識をもって生活することが大事です。

そしてデータとは事実をしめす情報のことです。恣意や主観がはいってはいけません。観察事実や観測結果を正確に記録します。データというと数値のことだとおもうかもしれませんが、観察事実を言葉で記載したものでもかまいません。

データがある程度あつまったら仮説をたてます。仮説とは、仮につくりあげたとりあえずの説明のことです。すべてのデータを矛盾なく説明できるものが仮説になります(注)。

仮説をたてるときに重要なのが物事(データ群)を抽象化することです。これはやや高度な方法かもしれません。そのためのひとつのテクニックは図式にあらわすことです。図式はモデルといってもよいです。本ブログでもモデルをさかんに提案していますので参考にしてください。

仮説をたてたら、つぎにその確からしさを検証します。具体的には実験をおこないます。実験とは仮説を検証する作業です。おなじ手順にもとづいて実験をして、おなじ結果が誰にでもでるようでしたら仮説は検証されたことになり、ちがう結果がでたら仮説は検証されなかったことになり、仮説をたてなおします。

仮説が検証されなかったということは、俗にいうと実験は失敗したということになります。失敗というと悲観的にとらえる人がいるかもしれませんが、実験をくりかえしてただしい仮説にちかづこうとする方法ですから、失敗が多くてもいいのです。悲観とか楽観とかの問題ではありません。




このように、〈疑問→データ→仮説→検証〉が科学の営みの基本であり、科学の本質は、知識ではなく方法にあることに気がつくことが大事です。この方法は、実は、科学とはかぎらずあらゆる課題について利用できるのです。

一般的に、科学者(専門家)の書いたものはむずかしくてわかりにくいですが、池上彰さんは単純明快にみごとに解説しています。何事もわかりやすいのが一番です。


▼ 注
データと仮説を記述するときには、データと仮説をはっきりわけて記述することが必要です。どれが事実で、どこからが仮説(解釈)なのか。このことを明確にするのが科学的な姿勢として重要です。

このような区分ができるのならば、仮説をのべるときには自分のかんがえを堂々とのべてかまいません。

前世紀までの日本の組織・社会には、個人のかんがえをのべてはいけないという風潮がありましたが、今日では自分のかんがえをのべていいのです。データは、あくまで客観的に事実を記録・記載しなければなりませんが、他方で仮説をのべるときには、借りものではなくて、自分のかんがえをむしろ積極的にのべるべきです。

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▼ 文献
池上彰著『はじめてのサイエンス』(NHK出版新書)NHK出版、2016年10月11日