情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の第3場面はアウトプットであり、情報処理の結果は文として書きだされることが多いです。
このとき、国語辞典とともに有用なのが類語辞典です。いくつもの情報を圧縮・統合して要約文をつくるとき、おなじ単語のくりかえしをさけるとき、適切な単語がおもいうかばないときなどにとても役だちます。
類語辞典とは、似た意味をもつ言葉をまとめた辞典であり「類義語辞典」ともいわれます。
わたしは何冊かの類語辞典をつかっていますが、それらのなかから今回は、角川書店の『類語国語辞典』を紹介します。この辞典の特色は、分類体系表をつかって構造的に類語をとらえ、空間の中に位置づけて単語を理解できる点にあります。
本辞典の「序」からポイントを引用します。
語が体系をなすと言ったのは現代言語学の開拓者ソシュールである。彼は単語について二つの関係に気づいていた。一つは、実際に使われる語の意味が、文脈の中の数々の語の相互の関係で決まることである。いま一つは、選ばれて文脈の中で使われる語は、実は文脈の上では使われなかった単語との間の潜在的な関係において制約されながら使われているということである。一つの単語の「意味」を知るとは、その単語と潜在的な関係を保っている単語群の中にその単語を置き、その単語の位置を知ること。全語彙を、意味の群れによって分類して「類語の群」を設定し、その中で細かい意味を記述することによって、単語相互の潜在的意味関係を明確に浮き上がらせ、本当の「意味記述」をなそうと努めた。語彙が豊富であるとは、一つの単語と潜在的関係を保っている単語を、数多く思い浮かべることができるということである。語彙を豊かにするとは、個々の語を、ばらばらに数多く記憶することではなく、群れとしての単語を豊富に持ち、それを場に応じて的確に使用できることである。
上記の目的を実現するために、本辞典では、「類語の群」が体系化され、「語彙分類体系表」(上の表)によってそれらが明確にしめされています。
この「 語彙分類体系表」は、情報処理の観点から非常に重要な役割をはたします。
この体系表は、大分類として「自然」「人事」「文化」の3つにわけられ、それらを、表のように、「0自然、1性状、2変動、3行動、4心情、5人物、6性向、7社会、8学芸、9物品」という10項目(大項目)にわけてコード化しています。
そして、これらのそれぞれの項目(大項目)を、また、10項目(中項目)にわけてコード化しています。たとえば「0自然」については、「00天文、01暦日、02気象、03地勢、04景観、05植物、06動物、07生理、08物質、09物象」となっています。
そしてまた、これらのそれぞれを10項目(小項目)にわけてコード化しています。たとえば「00天文」については、「000天文、001宇宙、002空、003天体、004太陽、005月、006星、007地球、008朝夕、009昼夜」としています。
こうして、 大項目X中項目X小項目が、 10X10X10( 10が100に、100が1000に)と細分化されています。つまり、十進法にもとづいて、類語が群れになって体系表のなかにおさまっているのです。
似ている情報が編成されて、大項目・中項目・小項目というような立方体の多重構造になっていることがイメージできるでしょうか。
こうして「体系表」は、インデックスチャート(検索図解)として機能し、類語の空間配置をあきらかにします。たとえばある単語が、「体系表」の右上のやや下にあるとか、左の真ん中にあるとかというように位置を認識できます。
このような構造をしめす明快な「体系表」がついていることが本辞典の最大の特色であり、見出し語(キーワード)検索をして類語がわかるだけでなく、自分がさがしている単語やつおうとしている単語が、この体系の構造の中のどこにあるのかを位置情報として認識できる、つまり座標を特定できるのです。
ここに、言葉を言語領域だけでとらえるのではなく、イメージ領域(視覚領域)でもとらえる方法があります。
上の表をイメージとして記憶しておけば、単語だけを記憶するのとはちがい、イメージと言語とをむすびつけながら情報処理をすすめることができます。こうして、情報処理の視覚空間領域と言語領域とを同時に活性化し、両者を統合的に運用する道がひらかれます。
自分の心のなかにイメージができあがると、言葉の世界の見通しもよくなり、適切な単語がうかびあがりやすくなりります。また、イメージは全体像を明確にするので、全体の場のなかの要素として各単語をとらえなおすことができ、場と要素の認識から連想もはたらきやすくなります。こうして、言葉の「ジャングル」でまよわなくてすむようになります。
このように、情報のアウトプットのために類語辞典はとても有用であり、大いに利用していく価値があります。
大野晋・浜西正人著『類語国語辞典』角川書店、1985年1月30日
