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国宝 深鉢形土器(火焔型土器)
新潟県十日町市笹山遺跡、縄文時代中期(約5千年前)
(交差法で立体視ができます)

火焔型土器は芸術品ですが、他方で食料を煮炊きする実用品でもありました。生活のなかで縄文人がはぐくんだ高度な精神性をそこからよみとることができます。

國學院大學博物館で、特別展「火焔型土器のデザインと機能 Jomonesque Japan 2016」が開催されています(注1)。「『なんだ、コレは!』信濃川流域の火焔型土器と雪国の文化」が文化庁の日本遺産に認定されたのを記念し、火焔型土器や同時期の土偶や石棒などをとおして、そのデザインと機能が意味することをさぐろうという企画です。

展示品の目玉は「国宝 深鉢形土器(火焔型土器)」であり、じっくり観察できる貴重な機会になっています。ステレオ写真はいずれも交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 - >>



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中期縄文土器(常設展示)



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国指定重要文化財 浅鉢形土器(火焔型土器)(縄文時代中期) 



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深鉢形土器(王冠型土器)(縄文時代中期)  



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深鉢(馬高式土器、火焔型土器)(縄文時代中期) 



火焔型土器はすぐれた芸術性をもっているので、祭祀でつかわれたか観賞用の作品であろうとわたしはおもっていましたが、展示解説によると、「火焔型土器の内部にお焦げがのこっていることから、食品の煮炊きに実際につかわれていた」とのことです。土器のなかを見てみると、黒くなっている部分がたしかにあります。

化学分析により、「サケのような海洋資源を煮炊きしていた」ことなどがわかっているそうです。

すなわち火焔型土器は実用品だったのです。

すると特徴的な火焔の造形や突起は何なのでしょうか? このような突起は土器のつかい勝手をわるくし、土器をこわれやすくしていて無用の長物であるということになります。

解説によると、「火焔土器の突起は実用的な機能を実現するためのものではなく、縄文人の世界観に関係していて、縄文人の心象が投影されてデザインが成立」したということです。

縄文人は未開の野蛮人ではなく、ゆたかな精神性をもった人々でした。火炎のなかに生命力をみいだし、そのイメージを土器に表現(アウトプット)しながら生活のなかで精神性をはぐくんでいったのではないでしょうか(注2)。


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それに対して現代の日本人はどうでしょうか。学校でも会社でも役所でも「速くやれ!」です。何でも速くやればいいとおもって、効率第一、実際に役にたつことしかやろうとせず、道具は、人間を補佐し目的をとげる手段でしかありません。道具は所詮 "実用品" です。

現代人は、祖先である縄文人の精神文化をあらためてまなぶ必要があるかもしれません。

特別展の会場にいって火焔型土器とじっくり対面し、展示解説をよみ、また常設展も見学すれば、そのためのきっかけがえられるでしょう。


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▼ 注1
特別展「火焔型土器のデザインと機能 Jomonesque Japan 2016」
会期:平成28年12月10日~平成29年2月5日 
会場:國學院大學博物館

▼ 注2
火炎型土器がつくられた過程を情報処理の観点からとらえなおすとつぎのようになります。縄文人は炎を見ます(インプット)。つぎに炎をイメージします(プロセシング)。イメージは心象といってもよいです。そしてそのイメージを土器に表現します(アウトプット)。モデル化するとつぎのようになります。

170128 火炎型土器

ゆたかな精神性とは、高度な情報処理をすすめられる心のことであり、とくにイメージ能力が重要で、これによってよくできた土器が出現するとかんがえられます。