名城の数々を鳥瞰しながら、城郭と城下町をとらえなおすことには大きな意義があります。ひとつの創造のパターンが見られます。当時の人々の生活も想像してみるとおもしろいでしょう。

西ヶ谷恭弘/編著・荻原一青/画『日本の名城 鳥瞰イラストでよみがえる』は、全国133の名城を鳥瞰図で再現、城郭研究の第一人者のわかりやすい解説もつけた、見てたのしめる城郭画集・城資料集です。

各地の城持ち大名に命じて17世紀半ばに徳川幕府が提出させた城絵図「正保城絵図」や、ありし日の縄張り図、貴重な写真なども掲載されています。お城ファンでしたら是非とももっていたい一冊です。



IMG_7527
姫路城(146-147ページ)




名城は、地形をたくみに利用していて、建築物・城郭・城下町・環境の全体がひとつのシステムになっていたことがよくわかります。

それぞれの名城にはそれぞれに個性がありますが、一方で、城郭と城下町というシステムは基本的には全国どこでもおなじです。おなじパターンで各大名が任国づくりをおこなったのであり、これにより江戸幕府による全国統治、日本の領土国家の体制が確立したといえるでしょう。

城郭と城下町というパターンが確立したということが、当時の国づくり、国家統治を加速させたのは事実でしょう。

あたらしいパターンをつくるときには、それまでのふるい様式を破壊し、あらたな創造をしなければなりません。しかしパターンが一度できあがると、全国各地でそれをつかえばよいので後ははやいです。

しかしそのパターンも長い年月がたてば時代にそぐわなくなり、あたらしいパターンをつくらなければならなくなります。こうして明治維新をむかえ、残念ながらほとんどの城は破壊されてしまいました。

しかし戦後あるいは近年、当時の建築物を復元しようといううごきが全国各地でおきています。名城は、地域住民にとっては心のよりどころに今でもなっています。名城と城下町は、地域社会にふかく根をはっているのです。心のなかでは城下町はまだ死んでいないのです。




城下町だったところはどこにいっても雰囲気がいいです。城下町には魅力があります。いまでは観光地として重要です。

城下町は、城郭や町家といったハードウェアだけでなく、そこで暮らす人々の生活までがセットになって、ひとつの包括的なスタイルを生みだしていました。城下町は、ひとつの生き物のように機能していたのであり、日本が世界にほこっていい独自の文化スタイルがそこにはありました。

城郭と城下町のハードウェア(要素)だけにとらわるのではなく、当時の人々の生活も想像してみるとおもしろいです。想像をふくらませ、ひとつの創造的な仕組みとして城郭と城下町をとらえなおしてみるとよいでしょう。



明治維新以後、日本人は、西欧文明の模倣の民になってしまいました。

しかし近年、模倣をしているだけでなく創造性が重視されるようになってきました。したがっていま、全国各地の名城の数々をとらえなおすことには大きな意義があります。創造のヒントがえられるかもしれません。

行ったことがある名城を本書で見なおしてみると新発見がきっとあるとおもいます。またおもしろそうな名城が見つかったら実際に行ってみるとよいでしょう。


▼ 関連記事
鳥瞰のセンスをみがく -『大空から眺めるパノラマ鳥瞰地図帳』-
空間のなかで鉄道をとらえなおす - 吉永陽一『空鉄 -鉄道鳥瞰物語-』-
1862年の江戸を鳥瞰する - 立川博章著『大江戸鳥瞰図』-
鳥瞰図をみながら鉄道旅行 -『北陸新幹線沿線パノラマ地図帖』-

▼ 文献
西ヶ谷恭弘/編著・荻原一青/画『日本の名城 鳥瞰イラストでよみがえる』世界文化社、2011年3月18日