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クロマニョン人の頭骨(平行法で立体視ができます)

クロマニョン人は、観察力、記憶力・心象力・想像力、描画力といった高度な情報処理能力をもっていました。

東京・上野の国立科学博物館で特別展「世界遺産 ラスコー展 -クロマニョン人が残した洞窟壁画-」が開催されています(注1)。

ラスコーの壁画は、約2万年前にえがかれた洞窟壁画の最高傑作といわれています。それでは、この壁画をえがいたクロマニョン人とはいったい誰だったのでしょうか?

現在では、頭骨形態やDNAの研究から、クロマニョン人は、わたしたちとおなじホモ・サピエンスに属するとかんがえられています。ホモ・サピエンスは、20万年〜10万年前にアフリカで誕生し、そのご世界各地へひろがっていき、その一部はヨーロッパにも進出したと想像されています。




洞窟壁画をみればあきらかなように、クロマニョン人は動物などを実によく観察しています。高度な観察力が彼らにはあったことがわかります。

また洞窟をみるかぎり、洞窟のなかに動物をつれてきて、実物をみながら模写したとはとてもかんがえられません。彼らは、動物などを野外で観察したら、いったんそれらを心のなかにどどめ、つまり記憶し、それらを想起しながら絵をえがいたのでしょう。このとき、そのまま実物をえがくのではなく、ある程度の想像や創作をいれています。つまりクロマニョン人は記憶力・心象力・想像力をもっていました。

そして、壁面に実際に絵をえがく高度な能力、描画力もありました。顔料(絵の具)が洞窟から発見されていて、黄土色・明るい黄色・赤・琥珀色などのさまざまな色をつかいわけています。また彫刻刀のような石器があり、刃が摩滅しているものがあるので、これらは壁画の線刻画につかわれたとかんがえられます。

以上を、ヒトがおこなう情報処理の観点から整理すると、観察力はインプット能力、記憶力・心象力・想像力は心のプロセシング能力、描画力はアウトプット能力といえるでしょう(図1)

161208 クロマニョン人
図1 高度な情報処理能力をもっていた


つまり高度な情報処理能力をクロマニョン人はもっていたのです。このようないちじるしく高い情報処理能力はホモ・サピエンスだけが発達させたのではないでしょうか。霊長類などのほかの動物にも情報処理能力はあるにはありますが、芸術のはじまりといわれるような壁画をアウトプットするような高度な能力はみられません。




彼らの暮らしぶりについては、人骨化石の形態学的研究や遺跡から出土する遺物の考古学的研究などから想像されています。

糸をとおす穴をあけた骨製の縫い針がみつかっているので、機能的な衣服をつくっていたと想像されます。貝殻・動物の歯・象牙製のビーズやペンダントなどのアクセサリー類も大量にみつかっています。貝殻のビーズをつけた頭飾りもあったことがわかります。また石や角を利用してさまざまな種類の槍先をつくっていました。石器には、皮革加工の専用具のようなものがあり、彼らが動物の皮を積極的に利用していたこともわかります。

これらの証拠と実際に見つかっている化石骨をもとに等身大の復元模型がつくられ展示されています。写真はいずれも平行法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 - >>



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クロマニョン人の復元模型



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クロマニョン人の復元模型



特別展の会場にいったら、さまざまな断片的情報をくみあわせて、クロマニョン人たちの暮らしぶりや能力を想像してみるとおもしろいでしょう。


▼ 注1
特別展「世界遺産 ラスコー展 -クロマニョン人が残した洞窟壁画-」
国立科学博物館のサイト

▼ 参考文献
海部陽介監修『世界遺産 ラスコー展』(図録)、毎日新聞社・TBSテレビ発行、2016年

▼ 記事リンク
イメージをえがく - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(1)-
洞窟の構造をとらえる - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(2)-
クロマニョン人の情報処理能力をみる - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(3)-
手・指をつかってアウトプットする - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(4)- 
手をつかいこなして道具をつくる - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(5)-
イメージをえがき、手をつかってアウトプットする - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(まとめ)-