161209 進化
図1 手は、アウトプットのための器官

進化により、ホモ・サピエンス(ヒト)には手・指が発達しました。手・指はアウトプットのための基本的な「道具」として重要です。

東京・上野の国立科学博物館で特別展「世界遺産 ラスコー展 -クロマニョン人が残した洞窟壁画-」が開催されています(注1)。

ラスコー洞窟の壁画は、旧石器時代美術の最高傑作といわれています。クロマニョン人はわたしたちとおなじホモ・サピエンス(ヒト)であり、このような芸術活動をおこなうのは地球上の生物のなかでホモ・サピエンスだけであることが知られています。芸術活動はヒトに固有の特徴です。

それではヒトにだけ芸術がなぜ存在するのでしょうか? その生物学的な理由はわかっておらず、大きな疑問として本展でも提示されています。




そのひとつの理由として、進化の過程で、手・指がいちじるしく発達したことがあるとわたしはかんがえています。クロマニョン人がおよそ2万年前にのこしたメッセージをみながら以下のような考察をしてみました。

生物進化論によると、手は、魚類のヒレが進化したものです。魚類が両生類に進化したときにヒレは足に進化しました。爬虫類、哺乳類が出現すると、足は、陸上を移動する道具として機能をたかめました。そのごサル類があらわれ、木にのぼるために木の枝をつかめるように前足が発達しました。つまり前足は手に進化したのです。

そしてサル類のなかから樹上からふたたび陸上におりて、直立二足歩行をはじめるものがあらわれました。これが人類の誕生です。直立二足歩行ができるようになったことで、完全に自由に手がつかえるようになりました。手のなかの指もいちじるしく進化しました。こうしてたくみに物をつくったり、絵をえがいたりできるようになったのです。




情報処理用語をつかうと、目や耳や鼻などの感覚器官は情報をインプットする器官、脳はプロセシングの器官であるのに対し、手は、アウトプットのための器官です(図1)。

このアウトプット器官が高度に発達したからこそ、物をつくったり、絵をえがいたり、さらに楽器を演奏したり、文字を書いたりすることができるようになったのです。

人類の進化をかんがえるときに、脳の肥大化や脳の進化を多くの人々がとりあげますが、一方で、手・指の進化についてももっと注目しなければなりません。

手・指は、アウトプットのもっとも基本的な「道具」です(注2)。手・指をつかいこなすことはよくできたアウトプットにつながります。手・指がつかいこなせるように訓練することは、アウトプットの訓練をすることです。情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)をすすめるときに留意しなければなりません(注3)。


▼ 注1
特別展「世界遺産 ラスコー展 -クロマニョン人が残した洞窟壁画-」
国立科学博物館のサイト

▼ 注2
アウトプットの器官としては、ほかに、発声器官・呼吸器系もあります。声をだすのもアウトプットの一種です。今回の特別展は壁画展(美術展)であったので視覚系と手をとりあげました。聴覚系と発声器官・呼吸器系についてはまた別の機会にとりあげたいとおもいます。

▼ 注3
プロセシングをいくらすすめてもアウトプットができなければ、あなたが何をかんがえているのか他者にはかわかりません。アウトプットするからこそメッセージが他者につたわります。

▼ 参考文献
海部陽介監修『世界遺産 ラスコー展』(図録)、毎日新聞社・TBSテレビ発行、2016年

▼ 記事リンク
イメージをえがく - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(1)-
洞窟の構造をとらえる - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(2)-
クロマニョン人の情報処理能力をみる - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(3)-
手・指をつかってアウトプットする - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(4)- 
手をつかいこなして道具をつくる - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(5)-
イメージをえがき、手をつかってアウトプットする - 特別展「世界遺産 ラスコー展」(まとめ)-