アメリカの重力波望遠鏡「LIGO」が重力波の検出にはじめて成功しました。このあたらしいセンサーにより、宇宙の認識のあり方が根本的に変わろうとしています。

『Newton』2016.12号の Newton Special では「重力波天文革命 光の天文学から、重力波の天文学へ」を特集しています。


2016年2月11日、アメリカ、ワシントンD.C.の NSF(アメリカ国立科学財団)本部で行われた記者会見で、"天文学の新しい窓" が開かれたことが発表されました。重力波望遠鏡「LIDO」(ライゴ)が、史上初めて「重力波」の直接検出に成功したというのです。(中略)

重力波とは、空間のゆがみが波として伝わる現象です。(中略)

電磁波を用いた天体観測によって、天動説から地動説への宇宙観の大転換が起きたように、重力波という新たな道具によって、今後、私たちの宇宙観は大きく塗り替えられることになるでしょう。


イギリスの物理学者ニュートン(1642〜1727)は「空間は、決して伸びたり縮んだりしない、絶対的なものだ」とかんがえていましたが、アインシュタイン(1879〜1955)は、「重力とは、空間(時空)のゆがみが生み出すものだ」と説明し、質量をもつ物体の周囲では空間がゆがむとかんがえました。

今回の LIGO による観測によってアインシュタインの仮説が証明されたわけです。

質量をもった天体がゆれうごくと、空間のゆがみが波となって周囲にひろがっていきます。これが重力波です。重力波の発生源としては「中性子星連星の衝突」や「ブラックホール連星の衝突」や「超新星爆発」がたとえばあります。

LIGO は「レーザー干渉計」の一種です。重力波がやってくると空間の伸び縮みが生じるので、干渉光を検出する装置にレーザー光が到達する時間が変化します(時間の差が生まれます)。今回の観測でこの差が観測されたので重力波の検出ができたということになりました。

重力波は透過力が非常にたかく、あらゆる物をすりぬけていきます。したがって天体の内部でおきている現象を研究することができます。たとえば恒星の大爆発である「超新星爆発」の内部の解明に役立ちます。あるいは宇宙の始まりや銀河系形成の謎の解明に重力波をつかってせまることができるとかんがえられています。




宇宙の認識を歴史的にふるかえると、人間は、可視光線を眼で見て宇宙を認識してきました。情報処理的にいうと、眼はセンサーであり、眼で見ることは可視光線を意識の内面にインプットするということです。そして宇宙を認識することは可視光線の情報を処理することであり、これはプロセシングです。

そもそも光とは電磁波であり、可視光線とは人の眼に見える電磁波で、波長が 約 380 ~約 780 nm(ナノメートル)の範囲のものをさします。

電磁波には、可視光線よりも波長の長いものや短いものも存在し、たとえば赤外線は波長が約0.72~1,000μm、紫外線は約10~380nm、X線は約0.001~10nm です。

そして科学者たちは、可視光線よりも波長の長い電磁波や短い電磁波もとらえられるようにあたらしい観測装置(センサー)を開発しました。人工的なセンサーにより "眼" の感度をあげたといってよいでしょう。こうして電波天文学が発展しました。

しかし電磁波は、物質を透過しなかったり物質の影響をうけやすいという特徴をもっています。

そこで今回の重力波の検出に大きな意義がでてくるのです。電磁波ではとらえられなかった情報が重力波によってとらえられるようになったということであり、"眼" とはちがうあたらしいセンサーを人間は手にいれたということです。