図1 記憶・判断・直観・ひらめきはプロセシング
記憶・判断・直観・ひらめきは、人がおこなう情報処理のなかのプロセシングに位置づけられます。情報をとりいれたら(インプット)したら睡眠をとるのがよいです。
『脳力のしくみ』(ニュートン別冊)では、近年の最新の科学データにもとづいて、記憶・判断・直観・ひらめきなどについて解説しています。
1.記憶
記憶についてはつぎのように解説しています。
記憶にとってとくに重要なのは脳のなかの海馬(かいば)だといわれています。五感をはじめあらゆる感覚器官がうけとった外界の刺激が電気信号に変換されて海馬にあつまってきます。海馬は、一時的に(1ヵ月から数ヵ月程度)記憶をたくわえ、その後それは大脳皮質に固定されるとかんがえれれています。海馬は、日中経験して記憶した出来事をねむりながら再生し、必要なものだけを大脳皮質におくっているという説があります。
それでは記憶力をあげるにはどうすればよいでしょうか? つぎの例が紹介されています。
そして重要なことは、記憶をどうやっておもいだすかということです。そのためにはおもいだす(想起する)ためのインデクスとなる記録(メモ)や写真などを整理しておくのがよいです。
2.判断・直観
わたしたちは生活のなかでさまざまな判断をする必要があります。判断は意識的にされるものと直観的にされるものとがあります。
判断と直観は、記憶よりもさらにすすんだ(記憶よりも高度な)情報処理といえるでしょう。
おもいこみや流行・感情・癖などにながされてまちがった判断をしないように注意しなければなりません。
また直観とは、無意識にすばやくはたらく思考です。直観は訓練によって生みだされるとかんがえる学者がいます。進化的に「新しい脳」の大脳皮質から、より「古い脳」に作業場が移行した思考回路によって直観が生みだされるという説や、小脳も直観を生んでいるかもしれないという説もあります。
絵画をみるとき、画家や画風のことなる作品をみると脳のことなる領域がはたらきます。このことから、さまざまな種類の絵画をみる訓練をつめば脳がやしなわれるという学者もいます。
3.ひらめき
むずかしい問題の答えをおもいついたり、芸術作品のアイデアをおもいついたりするのが「ひらめき」です。最近の研究から、ねむっている間にみる夢がひらめきに大きな影響をあたえている可能性が指摘されています。
睡眠中には、目覚めていたときには活動していなかった神経回路がはたらいて、さまざまな組みあわせで記憶と記憶が自由につながるようになるとかんがえられています。わたしたちが目覚めているときには、不要な情報は意識にのぼらないように神経回路がおさえられていますが、睡眠中(夢をみるレム睡眠中)ではこの抑制がはずれて、通常ではかんがえられないような記憶の組みあわせが生じ、斬新なアイデアがひらめくのではないかというのです。
したがってひらめき力をあげるためにはしっかり睡眠をとるのがよいということになります。
以上、「記憶・判断・直観・ひらめき」についておおざっぱにみてきました。
人がおこなう情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からみるとこれらはいずれもプロセシングに位置づけられます(図1)。「記憶・判断・直観・ひらめき」は前のものほど基本的なプロセシング、あとのものほど高度なプロセシングであるといえるでしょう。
したがって記憶はプロセシングの基礎となる仕組みです。
記憶は、学校教育などでは、筆記試験や受験勉強のためにおこなうこととおしえられ、あまりいい思い出がない人がいるかもしれません。一方、今日では、コンピューターとインターネットが発達してたいていの情報は検索すればでてくるようになり、記憶は重要ではなくなったとかんがえる人がいるかもしれません。
しかしプロセシングをすすめるためには基本的に記憶が必要です。情報処理をすすめてよくできたアウトプットをするために記憶が重要です。本書でも示唆しているように、まずは、もっとも好きな分野にとりくみ記憶していけば、おもしろいように記憶量が増えていきます。
またプロセシングをすすめるためには睡眠がとても重要な役割をはたします。
しかしただ寝ているだけでは効果があがりません。図1をみればあきらかなように、睡眠(プロセシング)の前にインプットが必要です。インプットをしないで寝ていても何もおこりません。インプットとは、書籍や資料を見たり読んだり、人の話を聞いたり、現地・現場・現物を見学したりして意識の内面に情報をとりいれることです。このようなことは努力すれば誰にでもできることです。情報をインプットし、そしてさっさと寝るという生活がよいでしょう。
▼ 文献
『脳力のしくみ 記憶力,直観力,発想力,天才脳など』(ニュートン別冊)ニュートンプレス、 2014年6月27日
1.記憶
記憶についてはつぎのように解説しています。
人間の脳はいとも簡単に記憶をつくり、そして自在に思いだすことができる。(中略)
一口に記憶といっても、実はさまざまな分類がある。記憶の保持時間に注目した場合、おおむね数時間程度で忘れてしまう記憶は「短期記憶」、それ以上覚えている記憶は「長期記憶」とされる。(中略)
記憶する内容による分類もある。朝食のメニューや遠足の思い出は、いつ、どこでといった個人の経験にもとづいた出来事の記憶である。このような記憶は「エピソード記憶」と呼ばれる。(中略)
また、いわゆる知識も記憶の一種である。(中略)いつ、どこで覚えたのかさえわからなくなっている。このような記憶は「意味記憶」と分類される。(中略)
一方、自電車の乗り方など、体の動かし方の記憶もある。このような記憶は「手続き記憶」とよばれている。(中略)
さらにもう一つ、「プライミング」とよばれる記憶がある。(中略)思い込みがプライミングである。(中略)
ほかにも、記憶が意識に上るかどうかで分ける「顕在記憶」と「潜在記憶」、言葉で表現できるかどうかで分ける「陳述記憶」と「非陳述記憶」などの分類がある。
記憶にとってとくに重要なのは脳のなかの海馬(かいば)だといわれています。五感をはじめあらゆる感覚器官がうけとった外界の刺激が電気信号に変換されて海馬にあつまってきます。海馬は、一時的に(1ヵ月から数ヵ月程度)記憶をたくわえ、その後それは大脳皮質に固定されるとかんがえれれています。海馬は、日中経験して記憶した出来事をねむりながら再生し、必要なものだけを大脳皮質におくっているという説があります。
それでは記憶力をあげるにはどうすればよいでしょうか? つぎの例が紹介されています。
- くりかえし勉強して海馬への信号の入力回数を増やす。
- 感情とともに記憶する(感情をともなう出来事はよく記憶される)。好きなことにとりくむ。
- 学習した直後に睡眠をとる。
そして重要なことは、記憶をどうやっておもいだすかということです。そのためにはおもいだす(想起する)ためのインデクスとなる記録(メモ)や写真などを整理しておくのがよいです。
*
2.判断・直観
わたしたちは生活のなかでさまざまな判断をする必要があります。判断は意識的にされるものと直観的にされるものとがあります。
脳では、脳内に広がる「神経細胞のネットワーク(神経回路)」が並列的に活動することで、さまざまな情報が処理される。(中略)
脳は、デジタル情報とアナログ情報をおりまぜながらあつかう。(中略)
不完全な情報をもとに答えを出したり、「創造」や「ひらめき」を生みだすことができる。(中略)
扁桃体を含む大脳辺縁系で感情が処理されている。
判断と直観は、記憶よりもさらにすすんだ(記憶よりも高度な)情報処理といえるでしょう。
おもいこみや流行・感情・癖などにながされてまちがった判断をしないように注意しなければなりません。
また直観とは、無意識にすばやくはたらく思考です。直観は訓練によって生みだされるとかんがえる学者がいます。進化的に「新しい脳」の大脳皮質から、より「古い脳」に作業場が移行した思考回路によって直観が生みだされるという説や、小脳も直観を生んでいるかもしれないという説もあります。
絵画をみるとき、画家や画風のことなる作品をみると脳のことなる領域がはたらきます。このことから、さまざまな種類の絵画をみる訓練をつめば脳がやしなわれるという学者もいます。
*
3.ひらめき
むずかしい問題の答えをおもいついたり、芸術作品のアイデアをおもいついたりするのが「ひらめき」です。最近の研究から、ねむっている間にみる夢がひらめきに大きな影響をあたえている可能性が指摘されています。
たとえば、名画「記憶の固執」など多くの作品をえがいたスペインの天才画家サルバドール・ダリ(1904〜89)は、夢でみた光景を絵にかいたという。名作『ジキル博士とハイド氏』を書いたイギリスの作家ロバート・ルイス・スティーブンソン(1850〜94)は、この小説のテーマとなる二重人格の元になる夢をみたという逸話を残す。
科学の世界でいえば、ドイツの化学者アウグスト・ケクレ(1829〜96)は、原子がつらなってヘビのように動き、頭の部分が尾の部分にかみついた姿を夢にみて、炭素原子6個が六角形状の構造に並ぶベンゼン環を思いついたという。
睡眠中には、目覚めていたときには活動していなかった神経回路がはたらいて、さまざまな組みあわせで記憶と記憶が自由につながるようになるとかんがえられています。わたしたちが目覚めているときには、不要な情報は意識にのぼらないように神経回路がおさえられていますが、睡眠中(夢をみるレム睡眠中)ではこの抑制がはずれて、通常ではかんがえられないような記憶の組みあわせが生じ、斬新なアイデアがひらめくのではないかというのです。
したがってひらめき力をあげるためにはしっかり睡眠をとるのがよいということになります。
*
以上、「記憶・判断・直観・ひらめき」についておおざっぱにみてきました。
人がおこなう情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からみるとこれらはいずれもプロセシングに位置づけられます(図1)。「記憶・判断・直観・ひらめき」は前のものほど基本的なプロセシング、あとのものほど高度なプロセシングであるといえるでしょう。
したがって記憶はプロセシングの基礎となる仕組みです。
記憶は、学校教育などでは、筆記試験や受験勉強のためにおこなうこととおしえられ、あまりいい思い出がない人がいるかもしれません。一方、今日では、コンピューターとインターネットが発達してたいていの情報は検索すればでてくるようになり、記憶は重要ではなくなったとかんがえる人がいるかもしれません。
しかしプロセシングをすすめるためには基本的に記憶が必要です。情報処理をすすめてよくできたアウトプットをするために記憶が重要です。本書でも示唆しているように、まずは、もっとも好きな分野にとりくみ記憶していけば、おもしろいように記憶量が増えていきます。
またプロセシングをすすめるためには睡眠がとても重要な役割をはたします。
しかしただ寝ているだけでは効果があがりません。図1をみればあきらかなように、睡眠(プロセシング)の前にインプットが必要です。インプットをしないで寝ていても何もおこりません。インプットとは、書籍や資料を見たり読んだり、人の話を聞いたり、現地・現場・現物を見学したりして意識の内面に情報をとりいれることです。このようなことは努力すれば誰にでもできることです。情報をインプットし、そしてさっさと寝るという生活がよいでしょう。
▼ 文献
『脳力のしくみ 記憶力,直観力,発想力,天才脳など』(ニュートン別冊)ニュートンプレス、 2014年6月27日