今回は、「発想をうながすKJ法」の第1場面である「ラベルづくり」についての解説を再度します。「ラベルづくり」の方法は簡単に「ラベル法」ともよぶこともあります。
「ラベルづくり」(ラベル法)とは次のとおりです。〔インプット→プロセシング→アウトプット〕の過程になっています。
〔取材する〕→〔情報を選択する〕→〔単文につづる〕
▼「発想をうながすKJ法」に関する解説はこちらです
▼「ラベルづくり」(ラベル法)に関する基本的な解説はこちらです
1.取材をする
見たり聞いたり感じたりして、情報処理のための素材を心の中にインプットします。
2.情報を選択する
自分のテーマ・課題のもとで、記録すべき重要な情報を選択します。
3.単文につづる
選択した情報のひとかたまりを単文にして書きだします。これは、情報の要点を言葉にしてアウトプットすることです。この「単文につづる」作業は、アウトプットのもっとも基本的な行為であり、アウトプットの第一歩といってもよいです。見たり聞いたりしたこと以外の体験や自分のおもいもアウトプットしてよいです。
■ 情報を単位化し、標識をつける
「ラベルづくり」では、見たり聞いたり感じたりした体験をどこかで区切り、情報のひとかたまりとして単位化することが必要です。
その単位化された情報の要点のみを言葉にするのが「ラベルづくり」です。言葉(言語)には、体験や情報を要約・統合する作用があります。こうしてできた「ラベル」は、ひとかたまりの情報の「標識」の役割をはたします。「ラベルづくり」における「ラベル」には、単なる紙片ということだけではなく「標識」という意味もこめられていて、情報のひとかたまりに対して、いわば「ラベル」をつけたというわけです。
■ 情報のひとかたまりには下部構造と上部構造がある
このような「ラベル」がつけられた情報のひとかたまりは、情報の本体(下部構造)とその「ラベル」(上部構造)という二重構造になっています。上図(モデル)を参照してください。
下部構造(情報の本体)は非言語の領域ですが、上部構造(ラベル)は言語化された部分であり、上部構造(ラベル)は下部構造の標識になっています。下部構造は体験のすべてですが、上部構造は抽象的です。表面構造(ラベル)が適切に構築できると、下部構造もしっかりとしてきます。 ラベル(要約文)はあくまでも標識であり、上部構造そのものが情報の本体ではないことに注目してください。
この二重構造は、「ラベル」だけを見ることにより、下部領域がすぐにおもいだせる仕組みになっており、これは記憶法にも通じています。
■ 情報を心のなかにファイルする
わたしたちは、日々、見たり聞いたり感じたりすることにより、自分の内面にあらたな情報を自然にインプットしています。よくできた情報処理をするためには、これをきちんと整備されたものにしていくことがのぞまれます。
「ラベルづくり」によってよくできた「ラベル」をつくるということは、体験を適切に圧縮するということです。
こうして、ひとつの体験がひとつの情報のかたまり(単位)となり、それらをひとつひとつ心のなかに「ファイル」していくと、心のなかの見通しはよくなり、心のなかがあかるくなります。
すると無駄がなくなり、情報処理の効率がよくなり、情報処理が加速されます。
心のなかに情報をファイルし、そのファイルを整備していくことをイメージしてください。
■ イメージデータのあつかいにたとえることができる
たとえば、デジタルカメラでたくさん写真をとったとしましょう。パソコンのハードディスクにそれらのデータを保存し、それぞれの写真にファイル名をつけます。このファイル名は「ラベル」に相当します。
ファイルに適切に名前をつけることができれば、ファイル名だけを見て写真(イメージ)をすぐにおもいだすことができます。すると、写真本体をいちいち見なくても、ファイル名だけをつかって情報処理ができるようになります。
つまり、たくさんの写真を画面上にならべて一覧するのは困難ですが、それらのファイル名(ラベル)だけでしたら、せまいスペースであってもすべてをならべて一覧することができます。100枚、200枚の写真があってもどうってことありません。ひとつひとつファイル名をみながらその写真を想起(心のなかでイメージ)していけばよいのです。
また、イメージデータはメモリーが大きくて重いですが、ファイル名は言葉(テキスト)でできているためメモリーは小さくて軽いです。大きなイメージデータをそのままあつかい操作することは困難ですが、言葉(テキスト)をつかえば操作が軽く簡単になります。
このように、大量のイメージデータがあっても、それぞれにファイル名(ラベル)をつけて一覧表示させれば情報はコンパクトに処理できるようになり、全体像をつかむことも容易になります。似ている写真をフォルダーにまとめたりすることもできるようになります。こうして、つかえるファイルが構築されていきます。
心のなかにファイルをつくるときにもこのことがとても参考になります。
■ ツイッターに「ラベル」をあらわす
情報はインプットしているだけでなく、どんどん「ラベル」化し(アウトプットし)、よいファイルをつくっていくことが大事です。
たとえば、ツイッターにツイートする(一文をつづる)こともアウトプットにほかならず、この場合も、情報のひとかたまりを意識するとよいです。ツイッター上にあらわれるのは「ラベル」(上部構造)のみであり、その下部に情報の本体が潜在していることを常にイメージします。
そして、ツイッター上の「ラベル」を見なおすことにより、これまでに蓄積してきた体験(情報の本体)を次々におもいおこす(想起する)練習をします。この行為は、記憶の強化と情報の活用につながります。
以上の「ラベルづくり」(ラベル法)は、大げさな訓練などを特にしなくても、ちょっと意識すれば誰でもできることなので、是非実践していただきたいとおもいます。
文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)1967年
文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)1967年