哲学者アリストテレスの業績がわかります。すでにもっている情報に類似な情報をむすびつけたときに理解や記憶が生じます。物事や情報の類似性から類推し発想します。

東京国立博物館・平成館で、特別展「古代ギリシャ - 時空を越えた旅 -」が開催されています(注1)。第5展示室「クラシック時代」にいくと大理石でできた「哲学者アリストテレス像」をみることができます。

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アリストテレス像(出典:展覧会図録)


アリストテレス(前384〜前322年)は、理解という現象は、すでに知っていることと類似な現象をおもいついたときに生じるとかんがえました。記憶という現象も、すでに記憶している情報に類似な情報を結合することで発生するとしました。物事や情報のあいだにある類似性に注目することは理解と記憶をすすめるための基本として重要です。

またアリストテレスは、論理学の方法としてつぎの3つをかんがえました。
  • アブダクション(発想法)
  • ディダクション(演繹法)
  • インダクション(帰納法)

これらのなかで、ディダクション(演繹法)とインダクション(帰納法)はよくしられてその後の学問の重要な方法となりましたが、アブダクション(発想法)については、アリストテレスが提唱して以来うもれたままで、現在まで十分につかわれていません。アブダクションとは端的にいうならば類推ということです。つまり似ているところに注目して推理をひろげて発想していく方法です。これは、連想やフラクタル(部分と全体が自己相似になっている形)とも関連しています。

このように、類似性ということが理解と記憶と発想をうみだすということをアリストテレスはのべており、これは、類比にもとづいて直観する方法といってもよく、一見すると素朴で簡単なことのようですが、人間がおこなう情報処理の本質としてとても重要です。




アリストテレスは、知を愛することが人間の本性であるがゆえに、人間は「知を愛する」とかんがえました。ギリシャ語ではこれをフィロソフィア(Philosophia)とよび、フィロは「愛する」、ソフィアは「知」を意味し、この言葉が「フィロソフィー」(哲学)になりした。

彼は、広範囲にわたる研究業績から「万学の祖」ともよばれ、その内容は、形而上学・倫理学・論理学・政治学・天文学・自然学・気象学・生物学・詩学・演劇学・心理学など多岐にわたり、学問のほとんどすべてが彼の「哲学」体系にはふくまれていました。総合的に真理を探究したのです。

このような業績をみるだけでも、古代ギリシャが学問的にもいかに発展していたかがよくわかります。

ひるがえって、現代文明の学問をみると病的にまで細分化、たこつぼ化がすすんでしまい、ふくよかで全体的な体系がうしなわれています。こまかくこまかく分析的にとらえていくだけで全体像はますますみえなくなってきています。

それではどうすればよいか? アリストテレスの方法がつかえます。類比・類推・連想・フラクタルなどを通して理解し記憶し発想する、原点をとらえなおします。




アリストテレスの肖像は 20 例が現在しられており、今回の特別展に出展された作品はそれらのなかでもっとも保存状態がよく、完全な形で鼻がのこっている唯一の例です。はっきりとした3本の水平なシワが額にはしっているのが印象的であり、バランスのいい顔だちは、彼の意識の内面がととのいみがかれていたことを想像させます。

アリストテレスは、カルキディケ地方のスタゲイロスで生まれ、プラトンという一流の師のもと、アテネで教育をうけ、勉学と研鑽にはげんですぐれた学者になりました。学者になってからは、アレクサンドロス大王の家庭教師もつとめました。

前335年には、アテネのリュケイオンの地に学校をつくり、数多くの弟子たちをそだてました。その土地にちなんで「リュケイオン」とその学校はよばれ、彼と彼の弟子たちは、パリパトス学派(逍遥学派)を形成しました。弟子たちの努力もあって彼の哲学は大きく花ひらいたのであり、彼らの業績は、西洋文明における学問の発展の土台になりました。



▼ 注1
特別展「古代ギリシャ - 時空を越えた旅 -」 
会場:東京国立博物館・平成館
会期:2016年9月19日まで
※ 写真撮影は許可されていません。

▼ 参考資料
芳賀京子監修『古代ギリシャ 時空を越えた旅』(展覧会図録)、朝日新聞社・NHK・NHKプロモーション・東映発行、2016年6月21日 

▼ 参考文献
栗田昌裕著『絶対忘れない! 記憶力超速アップ術』日本文芸社、2010年5月30日
川喜田二郎著『発想法 創造性開発のために』(中公新書)中央公論新社、1986年9月1日 三木清著『アリストテレス 哲学文庫』哲学研究会、2014年8月11日