感覚とは、外界(環境)から情報をインプットする仕組みです。感覚を強化すれば認識力もたかまり情報処理がすすみます。

NHK・Eテレ「スーパープレゼンテーション」で、「I listen to color(色が聞こえる)」(ニール=ハービソン)を放送していました(注1)。

アーティストのニール=ハービソンさんは、生まれたときから色覚異常であったため色がまったく認識できません。したがってモノクロの世界で生きています。空も花もテレビも白黒です。

しかしエンジニアと協力して、「エレクトリックアイ」というカラーセンサーをつくりました。このセンサーは色の周波数を計測することができ、計測された周波数は信号になってチップにおくられて音を発します。ハービソンさんはその音を骨伝導で聞くことができます。つまり色を音に変換して認識するのです。いわば「色が聞ける」というわけです。以後8年間にわたって色を聞いているそうです。

色を聞きながら、音と色とをむすびつけて色の名前を記憶していきました。するとこれはあたらしい感覚として身についてきました。さらにおどろいたことに色のある夢を見るようになりました。エレクトリックアイは体の一部になり、サイボーグに自分がなったような気がしました。

人生は劇的にかわりました。

美術館に行くと僕は、ピカソを聴くことができます。まるでコンサートホールに行ったみたいです。着る服も変わりました。今は音がよい服を着ています。

さらに音を聴いてカラーの絵をえがくこともはじめました。さまざまな音楽を聴いて色であらわすこともはじめました。カラーを表現できるようになったのです。

さらにエレクトリックアイで赤外線と紫外線もとらえられるようにしました。可視光の範囲をでて、人間の目ではとらえられない領域へと認識の幅をひろげたのです。今では、紫外線がつよい日かよわい日かが音でわかります。

その後「サイボーグ基金」を創設し、テクノロジーによって感覚を拡張する仕事をすすめています。
 
知識は感覚からはぐくまれます。感覚を拡張すれば知識も拡大することができるのです。皆さんも、自分のどの感覚を拡張したいかをかんがえてください。人生はもっとエキサイティングになります。




このプレゼンテーションを目の不自由な人の苦労の物語としてうけとってはいけません。ニール=ハービソンさんは、人間の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)に関する本質的なことをのべています。

上記のプレゼンテーションででてきた「感覚」「認識」「表現」を情報処理の用語でおきかえるとつぎのようになります。

  1. 感覚:インプット
  2. 認識:プロセシング
  3. 表現:アウトプット

見るということ(視覚)は、光(光波あるいは光子)を目でうけることであり、光をインプットすることです。

インプットされた光は電気信号に変換されて脳におくられ、その情報が脳で処理されて波長ごとにことなる色として認識されます。色は脳で生じているのです。光そのものには波長があるだけで色はついていないことが科学的に知られています(注2)。

そして認識したこをたとえば絵にして表現します。これはアウトプットすることです。

以上のように、普通の人は、目からインプットされた光の波長を色で区別して認識する(図1)のに対して、ハービソンさんは、エレクトリックアイにインプットされた光を音で区別して認識します(図2)。


160630a 色をきく
図1 光を色で認識する


 160630b 色をきく
図2 光を音で認識する



ハービンソンさんの聴覚は普通の人よりもはるかに発達しています。ハービンソンさんがのべているように訓練によって感覚は強化することができます。たとえば音楽家もずばぬけた聴覚をもっています。コックや料理評論家は味覚がいちじるしく発達しています。自分の問題意識にしたがって感覚を強化する練習(インプット訓練)をしていくとよいでしょう。

また「カラーの夢を見るようになった」という話も興味ぶかいです。寝ているときに見る夢は、白黒の夢を見る人、カラーの夢を見る人、白黒の夢もカラーの夢も見る人がいるとおもいますが、カラーの方が白黒よりも情報量が圧倒的に多いことはあきらかです。このことは、たとえばコンピューターファイルでも、白黒よりもカラーのイメージの方が圧倒的に容量が大きいことから類推できるとおもいます。

つまりカラーの夢を見る人のほうが高度な情報処理をおこなっているとかんがえられます。訓練をして情報処理能力が高まるとカラーの夢を見るようになるということです。

ハービソンさんの話を聞けば人がおこなう情報処理について理解をふかめることができます。わたしたちもその仕組みを理解し活用し、そのはたらきを高めていく努力をすべきでしょう。またテクノロジーの開発をするときにも、人間にとってかわるような技術ではなくて、人間の情報処理能力を高め拡充するような技術を開発していくのがよいでしょう。


▼ 注1
ニール・ハービソン「I listn to color(色が聞こえる)」(NHK・Eテレ)
ニール・ハービソン「僕は色を聴いている」(TED)

▼ 注2
眼はセンサー、脳はプロセッサー - 「色覚のしくみ」(Newton 2015年 12 月号)-

▼ 関連記事
眼はセンサー、脳はプロセッサー - 「視覚のしくみ」 (Newton 2015年 11 月号) -
耳はセンサー、脳はプロセッサー - 聴覚のしくみ(Newton 2016年2月号)-
すべての感覚を大きくひらいて情報処理をすすめる - 広瀬浩二郎著『触る門には福来たる』-

▼ 参考文献
『感覚 ― 驚異のしくみ』(ニュートン別冊)2016年3月12日