居住地の周辺に半自然地帯をつくって〈人間-半自然-自然環境〉系を構築することによって、生物多様性と自然環境を保全することができます。
根本正之著『日本らしい自然と多様性 身近な環境から考える』は、「日本らしさ」を理解しまたとりもどすことから生物多様性と自然環境を保全しようということをのべた本です。
著者の根本正之さんがいう「日本らしさ」とは、日本列島という自然と日本人とのあいだにかもしだされた特性のことであり、水田がひろがる田園地帯が日本らしさを特徴づけています。とくに、ふるくから存在する里山の風景は日本らしさの典型といえるでしょう。
目 次はじめに 豊かな自然と出会った1章 日本らしい自然ってどんなもの?2章 美しいふるさとづくりの決め手3章 日本人は自然をどのように利用したか4章 多様性のエコロジー5章 植物は人間の行為をどう受けとめたか6章 半自然を再生して生物多様性をとりもどす
*
狩猟採集をしていたかつての人間は自然の一要素にすぎませんでした。その時代には自然の体系(システム)があるだけでした(図1)。

図1 自然の体系
その後、人間は人口をふやし、定住し里(集落)をつくるようになります(図2)。人間は自然環境から恩恵をうけ、一方で不要な物質を自然環境へ放出しながらくらしていました。この段階では、人間と自然環境との素朴なやりとりで体系が維持できていました。

図2 集落(里)ができた
その後、人口がふえて集落の規模が大きくなるとともに、もっと生産性の高い環境が必要になってきます。耕地や雑木林などで人間に役立つ植物などを意識的にそだてます。里山はその典型です(図3)。里の人々は、里山を介して自然環境から恩恵をうけたり、物質を放出するようになります。恩恵はインプット、放出はアウトプットといってもよいです。たとえば上水はインプット、下水はアウトプットです。
図3 里山の成立
日本の原風景といえば里山の風景といってもよいでしょう。手前には田んぼがひろがり、その背後には、人が利用できる樹木がうえられた雑木林がひろがっています。このような里山を再生することは生物多様性と自然環境の保全につながります。
しかしながら都市化がすすむ現代においては里山の再生がもやは不可能な地域がたくさんあります。ところがそのようなところでも図3のモデルは役立ちます。図3を図4のようにおきかえてつかっていけばよいのです。

図4 半自然をつくりだす
「半自然」とは里山に相当する地帯であり、人間と自然環境とが共生してつくりだすものであり、人間と自然環境とのあいだにかもしだされるものです。「二次的自然」とよぶ人もいます。これは、住宅地(人間)と自然環境との間にあって緩衝帯としての役割もはたします。
このように住宅地の周辺に人間の手によって半自然を意識的につくりだせばその土地本来の自然環境は保全されます。そこでくらす住民が地域の自然環境を見直して、自分たちでかんがえて半自然をつくっていけばよいのです。住民が主体になって、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉を実践することにもなります。その地域らしさもあらわれてきます。
レッドデータにでている特定種の生息環境をただ整備すれば、生物多様性が保全・回復できるということではありません。半自然をつくりだして「人間-半自然-自然環境」系を構築して、生物多様性をとりもどし保全していくということです。全体のシステムを理解し再構築することが必要です。
ただし半自然をつくるときに外来種はもちこまないようにします。外来種をもちこむと、気がつかないうちに自然環境へそれがひろがり在来種を危機においやってしまいます。
▼ 参考文献
根本正之著『日本らしい自然と多様性 身近な環境から考える』(岩波ジュニア新書)2010年5月27日、岩波書店
日本らしい自然と多様性――身近な環境から考える (岩波ジュニア新書)