ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』から管弦楽の部分をピックアップして編曲した作品です

編曲と指揮をしたロリン=マゼールによると、「ワーグナーの書いた音譜以外、いっさい追加しておらず、各曲はオペラの順番どおりにつなげてある」そうです。この作品は、重要な曲を単に抜粋したのではなく、いくつもの曲が切れ目なくつづき、まるで一曲の壮大な管弦楽曲のようにたのしむことができることが特色です。

以下の楽曲がピックアップされています。

『ラインの黄金』より
  「かくてラインの「緑色のたそがれ」が始まる」
  「ヴァルハラ城への神々の入城」
  「地下の国ニーベルハイムのこびとたち」
  「雷神ドンナーが岩山を登り、力強く槌を打つ」
『ワルキューレ』より
  「われらは彼の愛の目印を見る」
  「戦い」
  「ヴォータンの怒り」
  「ワルキューレの騎行」
  「ヴォータンと愛する娘ブリュンヒルデとの別れ」
『ジークフリート』より
  「ミーメの恐れ」
  「魔法の剣を鍛えるジークフリート」
  「森をさまようジークフリート」
  「大蛇退治」
  「大蛇の悲嘆」
『神々の黄昏』より
  「ジークフリートとブリュンヒルデを包む愛の光」
  「ジークフリートのラインへの旅」
  「ハーゲンの呼びかけ」
  「ジークフリートとラインの娘たち」
  「ジークフリートの死と葬送行進曲」
  「ブリュンヒルデの自己犠牲」

実際にきいてみると実にうまくつながっていて時間がたつのもわれてしまいます。

マゼールは、ワーグナーのエッセンスをみごとにうかびあがらせています。すでに、『ニーベルングの指輪』を見たことがある人にとっては、楽劇(オペラ)の場面をおもいうかべながらきくことができます。一方、ワーグナーをこれからきいてみようという方にとっては『ニーベルングの指環』入門として有用です。

『ニーベルングの指輪』といえば、西洋音楽史上空前絶後の超大作であり、全作上演には実に約15時間を要します。マゼールはこれを約70分に圧縮し総集編をつくったわけです。どの曲をピックアップし統合して一本の楽曲にすればよいか、このためには高度な能力が要求されます。

音楽を演奏する(表現する)ということは、情報処理の観点からいうとアウトプットをするということです。アウトプットする場合、多種多量の情報のすべてをアウトプットすることには意味はなく、多種多量の情報を何らかの方法で統合してアウトプットすることになります。アウトプットの本質は情報の統合にあります

情報を統合する場合、いくつかの情報を融合・変化・発展させ圧縮して表現するという方法もありますが、マゼールは、もとの情報にはまったく手をくわえず、重要な部分をピックアップするという方法をもちいました。重要な箇所をピックアップして、それをもって全体を代表させるという方法であり、 いわば「代表選手」にすべてをたくすといったやり方です。音楽や映画の総集編をつくるときにつかわれる方法です。

ピックアップという方法は簡単そうでどうってことないように見えますが、実は、そこにはとても奥深い世界がひろがっています。 マゼールは実によくできたピックアップをしました。さすがです。

総集編のつくり方を参考にして、情報のアウトプットのために、ピックアップという方法を意識してつかっていくと仕事の効率・効果は高くなります


Blu-ray : “Ring Without Words” Richard Wagner, Lorin Maazel, Berlin Philharmonic, 2012
CD: Ring Without Words” Richard Wagner, Lorin Maazel, Berlin Philharmonic, 2005
(ロリン=マゼール指揮、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団、リヒャルト=ワーグナー『言葉のない指輪』)