「若冲展」で『動植綵絵』(どうしょくさいえ)をみて、梅原猛著『人類哲学序説』をよむと、「草木国土悉皆成仏」(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)の現代的な意味(解釈)がわかります。イメージをみてから言語で確認するという順序がおすすめです。

大好評開催中の「生誕300年記念 若冲展」(東京都美術館)(注1)にもう一度いってきました。前回よりも混雑していて、9時ちょうどに美術館前に到着しましたが入室までに2時間もかかりました。
 
今回は、『釈迦三尊像』と『動植綵絵』が展示してある1階展示室に直行しました。圧倒的なスケールの「若冲ワールド」が展開します。全33幅を一枚一枚をゆくりみていき、そして展示室中央にいって全体を一望しました。大変な混雑だったのでとなりの小さな休憩室にいったん移動し、今度は、椅子にすわって目を閉じて今みた空間の全体をイメージし、全体観をたのしみました。そしてまた展示室にみにいきました。会場はものすごい混みようでしたがイメージ訓練をおこなうなどの工夫をすればたのしめます。

『釈迦三尊像』と『動植綵絵』は一枚一枚をしっかり丁寧にみる一方で、全33幅全体を一挙にみる必要があります。個と全の両方がそろってこそ万物の共生がわかります。かつて、33幅のなかから何枚かを選択した部分展示がおこなわれた展覧会もあったそうですが、それでは「若冲ワールド」は再現できず、若冲がつたえたかった思想はつたわりません。

若冲が表現した思想は「草木国土悉皆成仏」であるとかんがえられます。
 
この思想の入門書として、梅原猛著『人類哲学序説』(岩波新書)(注2)をおすすめします。


若冲をみたら、この本をあわせて読むとよいでしょうか。できれば絵(イメージ)をみてから言語で確認するという順序がおすすめです。
 
梅原猛さんは、「草木国土悉皆成仏」という思想はいいかえれば「森の思想」であり、縄文時代以来の日本文化の特徴をしめす思想であるとかんがえています。現代的ないい方をすれば、自然を征服する科学技術から、自然と共生する科学技術へと転換しなければならないという思想です。本書の 178〜190 ページには、梅原さんによる『動植綵絵』解説も掲載されています。
 
梅原さんは、福島原発事故が発生したことから『人類哲学序説』を書く決意をしたそうです。本書のなかで、東日本大震災を「文明災」ととらえ、あらたな「人類哲学」を提唱しています。今回、若冲展をみてそして『人類哲学序説』をよんで理解がとてもふかまりました。




「若冲展」は、5月10日には入場者数が20万人をこえたそうです。現在、長蛇の行列、異常な混雑になっています(注3)。またとない機会だとおもって体調がわるくなっても無理してならんでいる人々もいます。わたしが2回目に行ったときには熱中症か何かでたおれて救急車ではこばれた人がいました。行列に長時間ならんで体調をくずすのはとても気の毒です。

これは、「奇想の画家」とされて評価されずにわすれられた画家だった若冲が現代において再認識され、日本人が若冲をうけいれた証拠ですが、このような混雑状況は日本のような文明国としてはいかがなものでしょうか?
 
そもそも今回の展覧会は会期がみじかすぎます。次回は、相国寺と宮内庁と美術館はよく相談して会期をもっとながくし、もうすこしらくに鑑賞できるように工夫をしていただければとおもいます(現在、『釈迦三尊図』は相国寺に、『動植綵絵』は宮内庁に所蔵されています)。展示しすぎて若冲の価値がおちるようなことはありません。日本国民全体の財産として若冲の作品をいかしていってほしいところです。ただし全33幅の全体展示でなければ意味がありません。

なおミュージアムショップにも長蛇の列ができていて、ポストカードなどを買おうとおもっていましたがあきらめました。展覧会の図録については建物の外の屋台で売っているのでならぶ必要はありません。


▼ 注1
特設サイト「生誕300年 若冲展」
東京都美術館のサイト

チケット購入
混雑状況の確認

▼ 注2:引用文献
梅原猛著『人類哲学序説』(岩波書店)岩波書店、2013年4月19日
人類哲学序説 (岩波新書)

▼ 注3
来場者が非常に多いということも重要な情報(データ)です。

▼ おすすめ参考文献
 

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