本書は、国立民族学博物館初代館長・梅棹忠夫が撮影した写真(一部スケッチ)と、彼が書いた文章とをくみあわせてフィールドワークのすすめかたの要点をつかむための事例集です。

本書を見れば、梅棹忠夫がのこした写真と言葉から、世界を知的にとらえるためのヒントを得ることができます。

本書は次の8章からなっています。

第1章 スケッチの時代
第2章 1955年 京都大学カラコラム・ヒンズークシ学術探検隊
第3章 1957-58年 大阪市立大学第一次東南アジア学術調査隊、1961-62年第二次大阪市立大学第二次東南アジア学術調査隊
第4章 日本探検
第5章 1963-64年 京都大学アフリカ学術調査隊、1968年 京都大学 大サハラ学術探検隊
第6章 ヨーロッパ
第7章 中国とモンゴル
第8章 山をみる旅

梅棹忠夫は、「あるきながら、かんがえる」を実践したフィールドワーカーであり、彼が、世界をどのように見、どのような調査をしていたのか、それを視覚的・言語的に知ることができます。

本書の特色は、写真と文章とがそれぞれ1セットになっていて、イメージと言語とを統合させながら理解をすすめることができる点にあります。知性は、イメージ能力と言語能力の二本立てで健全にはたらきます

イメージ能力をつかわずに言語能力だけで情報処理をすすめていると効果があがりません。学校教育では言語能力を主としてもちいてきましたが、これはかなりかたよった方法であり、すべてを言語を通して処理しようとしていると、大量の情報が入ってきたときにすぐに頭がつまってしまいます。

そこでイメージ能力をきたえることにより、たくさんの情報がインプットでき情報処理がすすみます。そのような意味で、写真撮影はイメージ能力を高め、視覚空間をつかった情報処理能力を活性化させるために有効です

写真は、言語よりもはるかにたくさんの情報をたくわえることができます。たとえば写真を一分間見て、目を閉じて見たものをおもいだしてみてください。実にたくさんの情報を想起することができます。あとからでも写真をみてあらたな発見をすることもあります。

こうして、写真と言語の両方で記録をとっていると、イメージ能力と言語能力とを統合することで相乗効果が生じ、視覚空間と言語空間は融合していきます

現代では、ブログやフェイスブックやツイッターなどをつかって、写真と言語とをくみあわせてアウトプットすることが簡単にできます。旅行やフィールドワークに行って、ブログやフェイスブックなどにそのときの様子をアップするときには上記のことをつよく意識して、梅棹流の形式で表現してゆけばよいでしょう。


文献:梅棹忠夫著『ひらめきをのがさない! 梅棹忠夫、世界のあるきかた』勉誠出版、2011年5月31日