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図1 自然環境から人間への作用が自然災害
 
自然災害から防災・減災までの一連の過程を〈インプット→プロセシング→アウトプット〉ととらえなおし、個人や地域の独自の課題のもとで情報処理を具体的にすすめていくことが災害から身をまもることにつながります。

日本列島でくらしているかぎり大地震はくりかえしやってきます。地震予知はできないので、大地震がいつきてもよいように自宅を補強したり、火災を出さないなどの対策が必要です。

海底で大地震が発生すると津波も発生します。津波の危険を感じたら、指示を待つのではなく、想定にはとらわれずに少しでも安全なところにみずから主体的に避難するようにします。自分の命は自分でまもらなければなりません。

また日本列島では火山噴火もくりかえしおこります。火山ほど危険と娯楽とが表裏一体になった場所はありません。火山災害にはどのようなものがあるかを知り、気象庁のウェブサイトで火山の危険度をあらかじめ しらべておくようにします。

また身近な災害としては気象災害があります。台風と集中豪雨には特に警戒しなければなりません。竜巻や落雷などについても注意しなければなりません。

東日本大震災において福島第一原発事故は悲惨な原子力災害を生みだしました。原子力災害から身をまもるためには原子力エネルギーについてまずはただしく理解する必要があります。そして原発廃止・新エネルギーへの転換を目指してすすんでいかなければなりません。




以上のようにおもな災害としては、地震災害・津波災害・火山災害・気象災害・原子力災害があります。今回は、これらを統一的に理解するためにモデル(図式)をかんがえてみました。

ある地域は、地域の主体である人間(あるいは人間社会)と、それをとりまく自然環境とからなりたっています(図1)。このモデルにおいて、自然環境が、人間(あるいは人間社会)へダメージをあたえるのが自然災害です。つまり自然災害とは自然環境から人間への作用です。

自然災害に対して、人間(あるいは人間社会)は受け身でただじっとしているわけではありません。何らかの対策を講じることになります。対策を講ずることは人間から自然環境への作用であり、これは自然災害とは逆のベクトルとなります(図2)。対策を講ずることは人間の能動的な行為であり、人間の主体性のあらわれです。具体的には、防波堤・堤防・避難所などの建設や耐震工事をしたり、あるいは災害時に安全なところに避難するという行動も対策を講ずることのひとつです。

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図2 人間から自然環境への作用が対策を講ずること



このモデルにおいて、自然災害のベクトルはインプット、対策を講ずるベクトルはアウトプットといいかえることもできます(図3)。

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図3 インプットとアウトプット
自然災害(インプット):自然環境 → 人間
対 策(アウトプット):自然環境 ← 人間


インプットが大きすぎてアウトプットがおいつかない場合は大きなダメージを人間はうけることになります。その逆に、インプットが小さいのにアウトプットが大きくなりすぎると、今度は、人間が自然環境にダメージをあたえることになります。インプットとアウトプットとがつりあうとダメージはなくなり平衡状態(調和した状態)になります。調和が理想の状態です(注)。

そしてインプットとアウトプットとの間の過程ではプロセシングがおこります。プロセシングとは、地域の主体である人間が かんがえたり判断したり対策を立案したりすることです。個人の場合でも集団や地域社会の場合でもプロセシングがおこります。集団や地域社会の場合はブレーンストーミングなどを集会でおこなうとよいでしょう。こうしてプロセシングの結果をアウトプットしていくことになります。プロセシングはとても重要です。

このように災害から身をまもる一連の過程は、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉システムととらえなおすことができます




このような観点から防災・減災は、個人や集団・地域社会にかかわらず次の3点に注目して実践するとよいでしょう。
  • 何がインプットされるのか?
  • プロセシングをすすめる。
  • 具体的に何をアウトプットするか?

このような過程はひろい意味の情報処理の実践になります。個人や地域の状況に応じて、課題を明確にして情報を収集し、それを処理し、ひとりひとりが主体性を発揮していくことがもとめられます。

ここではひとりひとりの情報処理能力が必要になってきますが、一方で防災・減災にとりくむ実践が、ひとりひとりや地域社会の情報処理能力を高めていくという結果を生みだすことにもなります。

防災や減災に具体的にとりくむ場合は自然現象や地学に関する体系的な知識はかならずしも必要ありません。これは、自動車を運転するために自動車工学の体系的知識は必要ないのと似ています。

災害は、個人や家や地域ごとに固有の特性をもっているため一般論ではかたれません。独自の状況をそれぞれに判断してそれぞれに対策を講じていくしかありません。そこでまずは、それぞれの課題を明確にして情報処理を具体的にすすめることを優先すればよいでしょう。東日本大震災から5年が経過したのを機に以上のようなまとめをしてみました。 


▼ 注
たとえば津波を例にすると、大津波は海岸の町にダメージをあたえます。これはインプットです。そこで防波堤を建設するとします。これはアウトプットです。どの程度の規模の防波堤をつくればよいか? たとえば高さ30mの絶対に破壊されない頑丈な防波堤を巨費を投じてつくったとしましょう。この場合は、大津波(インプット)はふせげますが、防波堤の建設(アウトプット)により海岸の自然環境は破壊され、景観も非常に悪くなり、観光客はこないでしょう。このアウトプットは自然環境にダメージを人間があたえたことになります。そこでインプットとアウトプットとの折り合いをどこでつければよいか? 住民集会をひらくなどしてプロセシングをすすめなければなりません。

▼ 記事リンク
地震災害から身をまもる - まとめ&リンク -
津波災害から身をまもる - まとめ&リンク -
火山災害から身をまもる - 川手・平田著『自然災害からいのちを守る科学』(2)-
気象災害から身をまもる - 川手・平田著『自然災害からいのちを守る科学』(3)-
原子力災害から身をまもる - まとめ&リンク -