小谷ほか著『原子力災害からいのちを守る科学』(岩波書店)は、原子核反応、放射能、放射性物質の挙動、放射線の生命への影響など非常に基本的なことをわかりやすく解説しています。中学理科がわかれば理解できるように記述されています。
目 次序章 東日本大震災のもたらしたもの第1章 「原子力」とはどういうエネルギーか原子力のエネルギーとは何だろう?放射性物質と放射線の発見ウランの原子核からエネルギーを取り出す半減期とは?単位の話 ー ベクレル(bq)とシーベルト(Sv)第2章 放射性物質とはどんなものか元素の周期表で元素の位置を確認する放射性物質と元素の周期表原子爆弾と原子力発電と元素元素の周期表と化学結合第3章 放射線は生物にどのように影響するか遺伝子の本体DNAへの影響今おきていること、子孫に受け継がれること原爆および原発事故からの教訓医療・農業・研究での利用第4章 どうしたら科学で身を守ることができるか放射性物質はどのように飛散し濃縮するかゴミを減らす方法と放射性物質を減らす方法の違いは何か毒も薬になる、薬も毒になる身を守るために物質の性質をもっと知ろう終章 科学は何ができるか
福島原発事故以後、最近では、1kg 当たり 100 Bq(ベクレル)をこえる放射生セシウムが検出された野菜は出荷しないという規制がおこなわれています。このようなことを理解するためには放射線の強さをあらわす単位について知っておかなければなりません。
たとえば牛乳1kg の中で原子核壊変が毎秒20回おこって放射線が放出されるとき、「この牛乳にふくまれている放射性物質の量は1kg 当たり 20 Bq(ベクレル)だ」といいます。Bq(ベクレル)は、発生する放射線の強さに注目してあらわした「放射性同位体の量」です。
一方、Sv(シーベルト)という単位があります。これは、「生体が放射線から受けたダメージの程度」(専門的には線量当量といいます)をあらわす単位です。
福島原発事故のあと次のような報道がありました。「通常、人が1年間に受ける放射線量は1〜2 mSv(ミリシーベルト)であるが、きちんと管理された状態で職業として放射線作業に従事する人が受けてもよい限度は1年間に 50 mSv までと定められている。しかし今回、緊急事態ということで、この限度を 250 mSv まで引き上げることになった」。
このような単位と限度値を知っていればニュースもよく理解でき、身をまもるために役立ちます。
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現在の日本政府は原発を再稼動させようとしていますが実際には危険が非常に大きいです。
- 濃度の高い放射性同位体をかぎられたせまい場所で使用しています。
- 炉が損傷した場合には放射性同位体がはげしく放出されます。
- 放出された放射性同位体が化学反応によって多種類の放射性物質を生成します。
- 放射性廃棄物はどのように処理するのでしょうか?
- 事故がおこった場合の処理のときにも放射性物質と常に接しながら作業をしなけらばなりません。
実際に事故が起こってから「想定外」と言っても何の解決にもなりません。
わたしたちは、原発廃止、新エネルギーへの転換へむかってすすんでいかなければなりません。そのためには原子力とそのエネルギーに関する正しい科学的知識を国民一人一人がまずは身につけなければなりません。本書が役立ちます。
▼ 引用文献
小谷正博・小林秀明・山岸悦子・渡辺範夫著『原子力災害からいのちを守る科学』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2013年2月20日
原子力災害からいのちを守る科学 (岩波ジュニア新書)