大津波は日本列島をくりかえしおそってきます。大津波の歴史記録から教訓をまなび、未来の防災にいかしていかなければなりません。
伊藤和明著『日本の津波災害』(岩波書店)は、『日本書紀』に記された最古の津波から2011年の東日本大震災まで印象的なエピソードをまじえながら津波災害をたどっています。いわば「津波の日本史」がここにあります。

日本列島の沿岸はどこでも大津波が襲来する可能性があります。過去の記録から教訓をまなびとることはとても重要なことです。


目 次
第1部 歴史に見る日本の津波災害
 第1章 古代の津波災害
 第2章 三陸沿岸を襲った大津波
 第3章 南関東沿岸の津波災害
 第4章 南海トラフ巨大地震と津波災害
 第5章 日本本海沿岸を襲った大津波
 第6章 沖縄・八重山列島を襲った大津波
 第7章 山体崩壊が起こした大津波
 第8章 太平洋を渡ってきた大津波

第2部 災害の記憶を後世に
 第9章 「稲むらの火」と防災教育
 第10章 3・11超巨大地震と大津波災害
 第11章 三連動地震に備えて


日本最古の津波の記録は『日本書記』にのっています。それによると、天武天皇13年(西暦684年)に起きた大地震のあと、四国の沿岸に大津波がおそいかかってきたことがわかります。これは、南海トラフ巨大地震の最古の記録であり、のちに「白鳳(はくほう)大地震」と命名されました。

東北地方の大津波の最古の記録は平安時代の歴史書『日本三代実録』に乗っている「貞観(じょうがん)地震」です。貞観11年5月26日(869年7月13日)に東北地方で大地震がおきました。そして仙台平野が大海原になるほどの大津波が襲来しました。

近年、東北地方沿岸の地層中の砂の層を調査した地質学者がいました。砂の層は、大津波によって海岸の砂が内陸部まではこばれてきて堆積したものです。その結果、貞観の大津波は、2011年の東日本大震災のときの大津波と大変よく似ていたことがあきらかになりました。

さらに調査をすすめたところ、過去3000年ほどのあいだに貞観津波に匹敵する大津波が3回おしよせていて、その発生間隔は800年から1000年ぐらいだったことがわかりました。

実は、おどろくべきことに、このような地質学的研究成果は東日本大震災よりも前に得られていました。 そしてそろそろ大津波がやってくるのではないかと警告を発していた地質学者もいました。

しかしその警告は広報されることはなく、予想は現実になってしまいました。 過去の教訓がいかされないまま大災害に見舞われてしまったのは大変残念なこととです。




その他、南関東沿岸、南海トラフ巨大地震、日本本海沿岸、沖縄・八重山列島、山体崩壊がおこした大津波、太平洋をわたってきた大津波について過去の記録が具体的に紹介されています。自分が暮らしている地域について本書の記述を読んで教訓を防災にいかすようにしなければなりません。




津波に関する注意点として次の2点があります。
  • 地震の揺れが大きくなくても大津波が襲来することがあります(このような地震を「津波地震」といいます)。
  • 津波が襲来する前に、海水が引くのではなく、いきなり押してくることもあります。「津波の前にはかならず海水が引く」わけでなないので注意が必要です。「引き」ではじまるか、「押し」ではじまるかは地震の発生の仕組みや海底地形などによって左右されます。




1983年5月26日におきた日本海中部地震の際、男鹿半島の加茂青砂海岸へ遠足にきていた小学生13人が、津波にながされて死亡するというかなしい出来事がありました。あとで、「海岸で地震を感じたらなら、津波が来ると予想しなければいけなかった」という批判がでました。学校教育のなかで大津波についてはとりあつかうことはなく、教師に認識がなかったということです。

しかし戦時中から戦後にかけてつかわれていた尋常小学校の国定教科書には「稲むらの火」という大津波に関する教材がのっていました。海辺の村の老人が、村人全員を高台にあつめ、津波から命をすくったという物語です。




今後の大津波対策として、大津波の教訓をあらためて教科書にのせる必要があります。これは、地震や津波のメカニズムを解明したりそれらを予知しようすることとは別の話です。人命をまもるために、具体的・実際的にどうすればよいのか、どう行動すればよいのかということであり、理屈は後回しでよいのです。

地震や津波というといわゆる地震学者がすぐにでてきて理屈を言ったり、決っしてできないのに予知ができるみたいなことを言って政府と国民を大いに混乱させます。地震学者の言動は間違っていることが多く役に立たないので、それらにはとらわれずに具体的な行動計画を立てることが必要です。

本書の冒頭に、津波の砂の堆積層を研究した地質学者の話がでていました。このような地質学者の研究に注目すれば、過去の大津波がどこまで遡上していたのかがわかります。避難場所はそこよりも高いところにしなければなりません。

巨額な予算をふりまわしている地震学者にくらべて地質学者は地味で脚光をあびることはなく、警告を発しても無視されるのが普通ですが、地震学者よりも地質学者の方が確かなことを言っています。この点にも注意するとよいでしょう。


▼ 引用文献
伊藤和明著『日本の津波災害』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2011年12月20日
日本の津波災害 (岩波ジュニア新書)