よくできた表現(アウトプット)をするためには共鳴効果をつかうとよいです。そのためにはバランスが必要です。


劇団四季の新演出で『ウェストサイド物語』(注)をみました。
 
ミュージカルは総合舞台芸術であり、音楽・芝居・ダンスをバランスよくくみあわせて物語を構成していきます。その結果、ホールはひとつの共鳴空間になって大きな感動がまきおこります。

総合舞台芸術としてはミュージカル以外にもオペラ・歌舞伎・バレエがあります。いずれも総合芸術ですが、オペラは音楽に重点がおかれ、歌舞伎は芝居に重点がおかれ、バレエは踊りに重点がおかれます。
 
それに対してミュージカルは、音楽・芝居・ダンス(踊り)の三者のバランスが比較的よいのが特色です。作品にもよりますが、どれかかに重点を特におくということはなく、三者のバランスをとりながら共鳴効果をひきだしています(下図)。いいかえると一点豪華主義ではないということです。

160229 共鳴
図 音楽・芝居・ダンスのバランスが共鳴効果を生みだす



このことは、特定の一流スター(有名歌手や有名俳優)にたよって効果をあげるという方法ではないということでもあり、事実、劇団四季にはいわゆるスターはいないのです。
 
これはたとえば協奏曲(コンチェルト)と交響曲(シンフォニー)とのちがいにも似ています。協奏曲では一流のソリストがでてきて演奏します。それを目当てに聴衆もあつまります。それに対して交響曲には特定のソリストはおらず、すべての楽器による音の共鳴効果をあくまでも重視します。
 
オペラや歌舞伎やバレエにはない、無期限ロングランになるようなおどろくべきヒット公演をミュージカルが次々に生みだしているのは、ひとえにいちじるしい共鳴効果によるものだとかんがえられます。共鳴が観衆をまきこんでいるのです。


 

音楽と芝居とダンスの共鳴がおこった場合、これら三者をたしあわせた以上の効果が生じます。この場合 全体は、部分の単なる総和ではなく部分の総和以上のものになります。作品は機械ではなく、ここに合理主義をこえた感動がもたらされます。
 
このことがわかれば、表現(アウトプット)のときに共鳴効果をつかうのがよいということになります。共鳴力をつかう方法は表現(アウトプット)の効果をあげるためにとても役立ちます。
 
これは一点豪華主義を否定するものではありません。共鳴効果か一点豪華主義かは時と場合によってつかいわけていけばよいでしょう。注意点は、共鳴効果を生みだすためには前提として全体的なバランスが必要であるということです。


▼『ウエスト・サイド物語』(West Side Story)
劇団四季:『ウェストサイド物語』
原案:ジェローム=ロビンズ
脚本:アーサー=ローレンツ
音楽:レナード=バーンスタイン
歌詞:スティーヴン=ソンドハイム

『ウェストサイド物語』は、ジェット団とシャーク団の抗争と人間のおろかしさをえがいた悲劇だと誰もがおもいます。しかし今回は、マリアを主人公にした物語という見方ができました。かわいらしいマリアが変化し成長し、そしてきっとたくましく生きていくだろうと予感させるラストシーン。心踊る演技、そして力強い歌声が、マリアが大人になっていく姿を見事に表現していました。