富井義夫著(写真)『人類への讃歌』(文化遺産編)は世界文化遺産の写真集です。単なる記録写真ではなく、「人類 五千年の旅の証し」をしめすという明確なメッセージをもったすぐれた写真集であるといえます。
内 容ヨーロッパ編中東・アフリカ編アジア・オセアニア編アメリカ編悲しみの遺産
富井義夫さんは次のようにかたっています。
冷静になって、今まで出会ったさまざまな旅の風物を
横並びにして一望したら、いったい何が見えてくるのか・・・。
そんな試みを可能にしてくれるのが写真のもつ魅了です。
それぞれの世界文化遺産は、歴史的にことなる時代にことなる場所でつくられた建造物などです。本来は同時には見られないこれらの物をまとめて一望できるのが本書の特色です。いわば人類史の圧縮体験ができるのです。歴史は通常は、物語として読みといていくものですが、ここでは、それとはちがう気楽でたのしい歴史のまなび方が可能になっています。この写真集を通して「人類 五千年の旅の証し」を一望し、人類史をあらたな視点からとらえなおしてみることには意義があるとおもいます。
情報処理の観点からいうと、歴史を、物語として時系列に読みといていくのは直列処理です。それに対して写真集をつかったとらえ方は並列処理になります。直列と並列とのちがいに気がつくことが重要でしょう。
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このような写真集からは何が見えてくるでしょうか。
ひとつは、それぞれの地域の文化遺産は、それぞれの地域独自の自然環境から非常に大きな影響をうけてできてきたことがわかります。砂漠と森林、寒冷地と熱帯など、ちがうことはあきらかです。
しかし他方で、そこで暮らす人々は自然環境に一方的に支配されるのではなく、独自の建造物ををつくりだして自然環境に積極的に関わろうとしました。さらに環境の改変もおこなってきました。
このような人々と自然環境との相互作用があったことが文化遺産にはきざまれています。文化には、人間と自然環境とを介在するという性質が本質的にあるということでしょう。
自然環境から人々への影響・作用はインプット、人々が、自然環境に積極的に関与し、環境の改変をおこなったのはアウトプットとよんでもよいでしょう。このようなインプットとアウトプットの両方の歴史があったことが写真集から読みとれます。
▼ 引用文献
世界遺産×富井義夫「人類への讃歌」文化遺産編 (写真工房BOOKS)
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