旅行記を書くということは、旅行の体験をとりまとめてアウトプットすることです。アウトプットすることによって情報処理は完結します。
 

轡田隆史著『10年たっても色褪せない旅の書き方』(PHP新書)(注)は、旅行記を書いて「自分らしい旅」を実現させることを提案しています。


目 次
第1章 観光客から「旅行家」にヘンシンする法
第2章 「自分らしい旅」の演出&観察法
第3章 「いい文章」のマネをする技術
第4章 「最初の1行」を書きはじめる技術
第5章 他人に読んでもらえる文章の「基本」


著者の轡田隆史さんはいいます。

「書く」という行為を前提にして初めて、「自分らしい旅」は可能となる。
うまい下手なんて関係ない。まず観察し、考え、書いてみよう。


旅行記を書くときにはさまざまな出来事を総花的に羅列するのではなく、感動したところを集中的に書いた方がよいです。

そのためには旅行にでかける前から「ネライ」をさだめておくようにします。ネライをさだめた文章はいきいきとしてきます。仮に団体旅行であってもそのネライに意識を集中して観察すれば、ほかの人びととは一味ちがった旅をしたことになるでしょう。

すると「観光客」ではなく「旅行家」の旅を自由な気分でたのしんだことになり、「観光客」から「旅行家」への変身も可能になります。




旅の感想文はみんな同じようなものになりがちですから、読んでもらうためにはできるだけ具体的に書かなければなりません。たとえば旅先で出会った人も店も食べ物も、名前を大切にあつかって具体的に描きます。これは紀行文の基本です。地名を効果的にもちいるのも旅の文章の醍醐味です。歴史にまつわる事実を書きこめば観光客の文章が旅行家の文章に変わります。

旅先では、スケッチを描いたりや余白に走り書き(メモ)をしておくと、紀行文を書くときの記憶の助けになります。帰国してから「記録」と「記憶」をたのしみながら旅行記が書けます。

また決まり文句はなるべく避けた方がよいです。決まり文句はとても便利なようですが、昔からもちいられてきた表現をおもいついた瞬間、自分自身による現場での観察が放棄されてしまいます。決まり文句はなかなかやっかいな存在です。「美しい言葉」「難しい言葉」をさがすよりも「当たり前」の見聞に心をうごかされる旅の方がおもしろいです。




旅行からかえってきたら写真を見ながら誰もが旅を回想するとおもいます。しかし旅行での貴重な体験を文章にして書き出している人は意外に少ないかもしれません。

そこで旅行にでかける前の計画段階から「今回は、旅行記を書くぞ!」とつよく意識してみます。すると現地に行ってからの観察力は格段につよまります。ためしてみてください。そもそも観察とは自分の外の世界を意識することです。

そして帰宅したら見たこと感動したことを書き出してみます。文章にして書き出すことは情報処理でいうとアウトプットするということであり、情報処理はアウトプットまでやって完結します(下図)。現代では、ブログやフェイスブックといったツールがあるのでアウトプットはやりやすいとおもいます。

150215 旅行記
図 アウトプットまですると情報処理は完結する


アウトプットをしないと情報の流れはおこらず、情報は心の中で対流してしまいます。




旅行は計画するところからはじまります。計画は第1の旅です。そして現地をあるくことは第2の旅、旅行記を書くことは第3の旅であるといってもよいでしょう。こうして旅行は3回たのしめます。

書くことを前提にして、みずら計画し、自分らしい旅をし、感動を書き出す。ここに、「書くように旅をする」という旅の醍醐味があります。


▼ 注
轡田隆史著『10年たっても色褪せない旅の書き方』 (PHP新書) PHP研究所、2014年12月16日
10年たっても色褪せない旅の書き方 (PHP新書)