日本史における武士団の潮流は、1156年の保元の乱以後 約835年間にわたって日本に流れつづけ、大きな役割をはたしてきました。


角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』(注1)をみれば日本史の大きな流れをよみとることができます。いくつかの注目すべき流れがあり、今回は、武士団についてみてみたいとおもいます。

第4巻『武士の目覚め 平安時代後期』(注2)にはつぎのように記述されています。


『愚管抄』という本に慈円はこう書いている。「保元の乱が起きた後 日本は武者の世になってしまった」と。


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日本の歴史において、武士の出現と鎌倉幕府の成立が、日本史の潮流を大きく変える転換点になったことは誰もがみとめることでしょう。 

武士のはじまりは、平安時代の後期、中央の武官や地方の豪族のなかから戦いの技術にすぐれたものがあらわれたところにあります。武士は最初は身分がひくかったですが、武士団を形成して次第に力をつけていきました。

そして1156年、保元の乱がおこります。崇徳上皇は、弟の後白河天皇と対立し戦になりました。この乱は、平清盛や源義朝らの活躍によって後白河天皇方が勝利します。これは、武士団の力によって政治の争いが決定された最初の出来事でした

その後、平氏の栄華、そして滅亡をへて、1185年、源頼朝は、後白河法皇と交渉して守護・持統を全国各所におく権利を獲得しました。最新の研究によりますと、この1185年に鎌倉幕府が成立したとされています(注3)。そして1192年、源頼朝は征夷大将軍に就任し、鎌倉幕府は名実ともに確立、武士によるあたらしい時代がはじまったのです。




この過程において注目すべきは武士団の誕生です。武士団とは一定の規律のもとに組織・編制された武士の集団のことです。これは、個人や個性よりも全体を重んじ、大きな集団が一体になって運動するという特色をもちます。 このような "武士団方式" は、その後の日本史の中を脈々とながれていくことになります。

武士の時代は江戸時代までつづき、明治維新をもって終わりました。しかし "武士団方式" はその後も生きのこったのではないでしょうか。生きのこったどころかますます巨大化し、日本国の近現代をすすめていくうえで非常に大きな役割を果たしたとかんがえられます。

第二次世界大戦までの軍事的拡大と海外侵略はいうまでもないことですが、戦後の高度経済成長においても "武士団方式" がでてきました。日本の会社組織は武士団の現代版であり、サラリーマンは企業戦士(注4)、会社のために一生懸命(注5)はたらいて経済戦争を勝ちぬいていく。個人よりも組織が重んじられ、一人一人は言われたことをきちんとやるという行き方です。

戦後の日本企業は、武士団が、姿かたちを変えてあらわれてきたと見ることができ、日本の高度経済成長は "武士団方式" で実現できたといえるでしょう。ここには、中国とも東南アジアともインドともあきらかにちがう日本固有の歴史の流れがありました。日本が、高度経済成長をアジアでいちはやく実現していわゆる先進国になれたのも "武士団方式" があったからでしょう




すくなくとも1980年代まではそうでした。 "武士団方式" は、実に約835年間にもわたって日本史の基礎的な潮流でした。




しかしながら、1990年代に入ってから様子がおかしくなってきました。すでに誰もがみとめているとおりです。

以前は、会社のために一生懸命はたらけば、とにかく頑張れば報酬がもらえました。しかし今ではリストラがいつあるかわかりません。転職はあたりまえになりました。"武士団方式" の時代は終わったのです。これは日本史上の一大事です。時代は転換しました。

これからの時代は、武士団のように、大きな集団が一体になって運動するというのではなくて、それよりも一人一人の個性が重んじられるようになるでしょう。一人一人がみずから主体性を発揮して自分らいしい生き方を見いだしていく時代になるのではないでしょうか(注6)。


▼ 注1
山本博文監修『日本の歴史』(角川まんが学習シリーズ 全15巻)KADOKAWA、2015年8月6日
角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 全15巻定番セット 

▼ 注2
『武士の目覚め 平安時代後期』(角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』4)KADOKAWA、2015年6月30日
角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 (4) 武士の目覚め 平安時代後期

▼ 注3
『いざ、鎌倉 鎌倉時代』(角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』5)KADOKAWA、2015年6月30日
角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 (5) いざ、鎌倉 鎌倉時代

▼ 注4:企業戦士
日本の企業戦士は戦国武将から数多くのことをまなんでいました。

▼ 注5:「一生懸命」の語源
「一生懸命」という言葉の語源は「一所懸命」です。武士にとって、戦いに勝って手に入れた土地は命をかけてまもるものだったのです。1980年代までは、多くの日本人が「一生懸命」という言葉を口にしていました。武士の子孫だったからです。

▼ 注6:情報処理のすすめ
一人一人がみずから主体性を発揮して自分らいしい生き方を見いだしていくために、本ブログでは、情報収集(インプット→プロセシング→アウトプット)の実践をすすめています。特に、アウトプットを積極的にしていくことがもとめられます。

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