日本の文化が形成されていく歴史的な過程では、日本よりもすすんだ文明を移植し模倣するという大きな流れがありました。


角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』(注1)をみれば日本史の大きな流れをよみとることができます。いくつかの注目すべき流れがあり、今回は、日本の文化形成あるいは文明化についてかんがえてみたいとおもいます。

第2巻『飛鳥朝廷と仏教 飛鳥〜奈良時代』
(注2)には、古墳時代の末期に次のような事件がおきたと記載されています。


587年 蘇我馬子・聖徳太子らが、物部守屋をほろぼす
 

蘇我氏(そがし)は、渡来系の一族とつながりがふかく、先進技術を外国からとりいれて勢力をつよめていました。対する物部氏(もののべし)は、朝廷の伝統的な祭祀をまかされていたこともあり、外国から伝来した仏教をとりいれることをこばんでいました。つまり、先進である中国文明を積極的にとりいれていくのか、古来からつたわる日本独自の伝統文化をまもりそれを発展させていくのかで、蘇我氏と物部氏が対立していたのです。


蘇我「仏教は大陸の国ぐにでみなが信仰している教えです。わが国にもぜひ取り入れるのがよろしいかと・・・」
物部「何を言う! みかどのお役目は天におられ地に宿る多くの神々を春夏秋冬お祭りすること・・・ 異国の教えなど信じてはばちがあたりますぞ!」


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そして587年、河内渋川(現在の大阪府八尾市、東大阪市付近)で武力による直接対決にいたりました。はげしい戦闘の末、蘇我氏は物部氏をたおしました。このとき、厩戸皇子(うまやとのおうじ、のちの聖徳太子)は蘇我氏と組んでいました。

こうして仏教をおもんじる時代がはじまり、中国文明を移植・模倣する歴史的な流れが日本国に生じました

そのご663年に、白村江の戦い(はくすきのえのたたかい)がおこり、唐・新羅連合軍に日本・百済連合軍が大敗をきっして「やっぱり中国はすごい!」と再認識したこともあり、日本はますます中国を尊敬するようになっていきます。中国から、仏教と律令を日本に移植したことにより、日本は文化を急速に発展させ文明化していくのです(注3)。

そして、すすんだ文明を模倣するという行き方はそのご脈々とうけつがれていきます。この流れは、1980年代まで実に約1400年間にわってつづきました。江戸時代までは中国文明を、明治維新以後は西欧文明を日本は徹底的に摂取しました。つまり日本の「真似る文化」は古墳時代の末(あるいは飛鳥時代初期)からつづく大きな潮流だったといえるでしょう。

日本において優秀な人材といえば留学生でした。自然科学にも「原書」を読めという教えがありました。オリジナリティーは外国にあるということです。 

その結果 形成された文化は「重層文化」です。すでにある基層文化のうえに先進の外来文化をかさねていくという方式です。日本文化の特色は「重層文化」であるということができます(注4)。




移植や模倣そして日本流に一部を改善することは決してわるいことではありません。このやり方を評価するかどうかよりもひとつの方法として容認すべきですし、これは日本の歴史の必然であったととらえた方がよいでしょう。




しかしながら、この移植・模倣・改善という方法あるいは重層文化の方法は1990年代ごろから通用しなくなりました。日本は十分に発展し、移植や模倣ではもはややっていけなくなりました。この点をとくに強調したいとおもいます。

このことが近年の日本の経済の衰退、国力の低下、停滞と混乱としてあらわれているのではないでしょうか。ソニー・東芝・シャープといった日本の企業、一体どうなっているのでしょうか。

日本の歴史全体の大きな潮流からみると、近年の事象は一時的な不景気といったことではなく、歴史的な転換期をしめしているといえます。約1400年つづいた移植・模倣・改善の時代は終わったのです。まさに日本史上の一大事です。相当な覚悟が必要です。

これまでの時代にはかならず "お手本" がありました。お手本をみながら一生懸命やれば、とにかく頑張れば成果がだせました。専門家や評論家は「欧米では〇〇ですよ」と言っていれば仕事になりました。

しかしこれからの時代にはお手本がありません。模倣ではないあたらしい生き方をみずから主体的に生みだしていかなければなりません。発想・独創・創造がもとめられているといえるでしょう(注5)。



▼ 注1
山本博文監修『日本の歴史』(角川まんが学習シリーズ 全15巻)KADOKAWA、2015年8月6日
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▼ 注2
角川まんが学習シリーズ『日本の歴史 2 飛鳥朝廷と仏教 飛鳥〜奈良時代』KADOKAWA、2015年6月30日
角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 (2) 飛鳥朝廷と仏教 飛鳥~奈良時代

▼ 注3:「日本文明」という言葉はすわりがわるい
日本は文明国にはちがいないでしょうが、「日本文明」という言葉は何だかすわりがわるいと感じている人が多いとおもいます。たとえば「中国文明」「ヨーロッパ文明」「ヒンドゥー文明」「イスラム文明」などの諸文明が世界にはあります。これらは自己発展的に成長した独自な文明であり、オリジナリティーと強力な個性をもっています。それに対して「日本文明」は独自性がよわく、オリジナリティーと強力な個性があまり感じられません。日本は文明国ではありますが、その文明は上記のような重層文化を発展させたものであり、本当の独自性を生みだすまでにはいたりませんでした。「日本文明」は未成熟であったのであり、これが「日本文明」という言葉が若干しっくりこない理由だとおもいます。

▼ 注4:縄文文化に注目する
日本の重層文化において、もっとも下位にある基層文化は縄文文化であるといってよいでしょう。したがって日本史の中にオリジナリティーをもとめるとすれば縄文時代にある可能性が高いです。今こそ縄文時代に注目すべきです。

▼ 注5:情報処理のすすめ
あたらしい生き方をうみだすために、情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)をみずから主体的におこなうことを本ブログではすすめています。

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