現代の自然科学は社会問題と密接にむすびついています。わたしたちは科学者と科学の動向についてつねに注目していかなければなりません。
池内了編著『これだけは読んでおきたい科学の10冊』(岩波ジュニア新書)は自然科学とその社会への影響を知るための読書ガイドです。本書をまず読んでそれぞれの要点をつかんでおくと、以下の「10冊」の本に挑戦しやすくなります。各章の最後には、さらにまなびたい人のために参考文献が紹介されていてとても役立ちます。
目 次1 ワインバーグ『宇宙創成はじめの三分間』2 ローズ『原子爆弾の誕生』上・下3 吉田洋一『零の発見』4 本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間』5 ローレンツ『ソロモンの指環』6 カーソン『沈黙の春』7 ワトソン『二重らせん』8 モリソンほか『POWERS OF TEN』9 ガモフ『不思議の国のトムキンス』10 アインシュタイン、インフェルト『物理学はいかに創られたか』上・下
自然科学というと、最先端の研究に注目するのが一般的であり、名著とか古典といったとらえ方はあまりないですが、これらはいずれも名著あるいは古典といってもよい本です。
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自然科学は非常にたくさんの分野が現代ではあってとても複雑そうにみえますが、基本的な方法はみなおなじで、次のようになっています。
- 課題を設定する
- データをあつめる
- 仮説をたてる
そして仮説がただしいかどうかは実験をくりかえすことによって検証します。仮説を支持しないデータがえられた場合は仮説をたてなおします。実験とは科学の基本的な実践形態です。
また研究結果を発表(アウトプット)するときには、データ(事実)と仮説(解釈)とを区別して記述することがルールになっています。
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上記の10冊の本のなかでわたしがまず注目したのは『沈黙の春』です。これは、農薬や化学物質による生態系の破壊を告発した最初の本でした。産業界からは大きな反発がおこりましたが、「沈黙の春」は今や現実のものとなっています。環境問題にとりくむ上でさけてはとおれない一冊です。
たとえば北イタリアのセベソは化学工場が爆発してゴーストタウンになりました。インドのボパールでは化学工場の爆発により2500人が死亡、被害者は20万人におよびました。ベトナム戦争では枯葉剤がつかわれ多くの人々がその後遺症で今でもくるしんでいます。
日本でも、水俣病・イタイイタイ病など枚挙にいとまがありません。そして原発事故・放射能汚染です。科学の結果が悪い方向にでたもっともシンボリックな事例が日本において生じてしまったことをわたしたち日本人は再認識しなければなりません。
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つぎに『原子爆弾の誕生』です。原爆の誕生から使用までの歴史を多くの資料と、開発に参加した科学者たちへのインタビューをもとにくわしくたどりました。もとの英語の本は900ページにおよび、日本語訳は上・下あわせて1500ページにちかい大著です。純粋に真理探究をしていた物理学者が悪魔へと姿を変えた歴史的事件がここにはきざまれています。科学者はおそろしい時代をつくりだしてしまいました。
現代の科学者は研究をすすめるだけではなく社会的責任をおわなければなりません。一方、一般の人々も科学者の動向につねに注意していなければなりません。物理学や化学だけではありません。現代では生命科学も社会問題と密接にむすびついています。科学のつかい方をあやまるととんでもないことになります。
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『零の発見』もおもしろいです。現代人にとっては零(ゼロ)があるのはあたりまえであり、零(ゼロ)をみても何もおもわないかもしれませんが、零(ゼロ)が発見されたことによりどれだけ世の中が進歩したことか。
零(ゼロ)は中国にいって「空」(くう)と訳され、日本にもつたわってきました。
零(ゼロ)は中国にいって「空」(くう)と訳され、日本にもつたわってきました。
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本書『これだけは読んでおきたい科学の10冊』を読んでおけば、ニュースや新聞・雑誌などをとおしてつたわってくる科学の最新の動向も理解しやすくなるとおもいます。
▼ 引用文献
池内了編著『これだけは読んでおきたい 科学の10冊』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2004年1月20日
これだけは読んでおきたい科学の10冊 (岩波ジュニア新書)
これだけは読んでおきたい科学の10冊 (岩波ジュニア新書)