仏像の見方・たのしみかたがよくわかる本です。

仏像に関する本は多数ありますが、この本はとても見やすく、わかりやすいです。1ページあるいは見開き2ページをつかって写真とともに簡潔に解説されています。わかりやすくつたえるためにはレイアウトも重要だということを再認識させてくれます。
 
第1章「やさしい仏像の見方」では、如来、菩薩、明王、天部、羅漢・高僧についてそれぞれ説明しています。

 
1)如来(にょらい)とは、真理の世界から来た者の意で、仏陀と同意です。釈迦如来、阿弥陀如来、弥勒如来、薬師如来、毘盧遮那如来、大日如来などです。

2)菩薩(ぼさつ)とは、自らの覚りを求めるとともに、人々の救済を願い、福徳をもたらす仏をさしています。弥勒菩薩、聖観音、十一面観音、不空羂索観音、千手観音、如意輪観音、馬頭観音、准胝観音、文殊菩薩、普賢菩薩、虚空蔵菩薩、地蔵菩薩、勢至菩薩、日光菩薩・月光菩薩などです。

3)明王(みょうおう)とは、如来の教えに従わないものたちを忿怒相(ふんぬそう)の恐ろしい姿で懲らしめ、教化しようとする、密教の仏たちの総称です。不動明王、愛染明王、五大明王、孔雀明王、大元帥明王などです。

4)天部(てんぶ)とは、バラモン教やヒンズー教の神々が仏教に取り入れられたものの総称で、仏やその教えを護り、人々に現世利益をもたらす役目があります。梵天、帝釈天、金剛力士、八部衆、二十八部衆、四天王、毘沙門天、十二神将、吉祥天、弁財天、鬼子母神などです。

5)羅漢・高僧(らかん・こうそう)は、釈尊の高弟や最高位の僧、宗派の開祖など、仏教の普及に深くかかわった人々です。十大弟子、十六羅漢、 無著・世親、達磨大師、聖徳太子、義淵、行基、鑑真、空海、最澄などです。


情報処理・問題解決の観点からは、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、普賢菩薩(ふげんぼさつ)、虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)に注目するとよいでしょう。

文殊菩薩は「智を象徴する菩薩」です。それに対して普賢菩薩は「行(行動)の菩薩」です。虚空蔵菩薩は「憶力をさずける菩薩」です。虚空(こくう)とは「何もさまたげるものがない空間」の意であり、記憶は、このような広大な空間をつかっておこないます。空間記憶法は大昔から実践されていたわけであり、注目しなければなりません。

本書をつかって、 インドから日本までいたる東洋の広大な精神世界を、仏像たちを通して具体的に認識することができます。精神的・抽象的なことがらを、仏像を見ることにより、視覚的にとらえなおすことができるのです。

また、本書全体を心の中にインプットすることにより、東洋の精神世界全体の仏像による見取り図(スケッチ、インデックス)が心の中に生じます。抽象的なことがらは記憶しにくいですが、仏像はとても記憶しやすくできています。活用していきたいものです。


文献:熊田由美子監修『仏像の辞典』成美同出版、2014年2月20日