わたしたち人間は生物学的にはホモ・サピエンスとよばれます。わたしたちがわたしたち自身について知ろうとおもったら、ホモ・サピエンスの頭脳や進化についての認識をふかめなければなりません。


『ホモ・サピエンス』(ニュートンプレス)はホモ・サピエンスについてイラストをつかってわかりやすく解説しています。


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ホモ・サピエンスとは、わたしたち人間を生物学的に分類したときの学名です。地球上には、実に多様な民族がくらしていて肌の色が様々だったりしますが、すべての人間は、ホモ・サピエンスというただ一種の動物として分類されます。まずはこの点をしっかり認識しなければなりません。

ホモ(Homo)はラテン語で「人」、サピエンス(sapiens)は「かしこい」という意味であり、ホモ・サピエンスとは「かしこい人」という意味です。

ホモ・サピエンスがはじめて地上にあらわれたのは約20万年前とかんがえられ、起源地はアフリカとする説が有力です。

ホモ・サピエンスは今や世界中に分布をひろげ、宇宙空間にまで居住しようとしています。これほどひろく分布した動物はホモ・サピエンス以外にはありません。


 

この驚異的な発展とひろがりが可能になったのは、ほかの動物とはちがう圧倒的な頭脳をもっていたからです。とくに発達が目立つのは大脳であり、大脳が発達したためにホモ・サピエンスは会話読み書きができ、かんがえることもできるようになりました。

また記憶もできます。本とは何か? 花瓶とは何か? 豚とは? といった記憶を「意味記憶」とよびます。類人猿にも意味記憶はあります。しかしホモ・サピエンスはそれだけではなく、特定の「エピソード」を記憶することができます。たとえば高校の卒業記念パーティー、はじめてバラをおくった女の子、車の運転をおしえてくれた人といった具体的なエピソードを記憶できるのです。さらに過去の記憶を時系列でなべたり、未来を想像したりすることもできます。このような能力は類人猿にはありません。

一方でホモ・サピエンスは模倣もできます。模倣によって、遺伝子にもとづいた自然淘汰から解放されて進化することができました。チンパンジーも行動を模倣することができますが、ホモ・サピエンスの場合はわずか1〜2回見ただけで模倣することができます。ほとんどの動物は進化するのに何百世代もかかりますが、ホモ・サピエンスの場合はわずか1〜2世代であたらしい行動をまなび、進化がひろがっていきます。これが、いわゆる文化や文明の基盤になりました。




それではホモ・サピエンスの脳はどのようにして進化したのでしょうか? 本書では、「脳は、徐々にではなく、突如、爆発的に進化した」という仮説を提示しています。

神経細胞1個1個の構造や性質自体に変化が起きなくても、細胞の数がふえれば、それらをむすぶ「配線」の数が爆発的に増加します。すると脳内のネットワークの状態や性質がガラリと劇的にかわります。

たとえるならば、氷の温度を上げると水になり水蒸気になるとき、H2O(水)の分子の構造や性質自体は変化しなくても、全体の性質はガラリと一変します。こうしたことが脳でもおきたのではないか。こうしてホモ・サピエンスだけが高度な文明社会をきずくことができたのではないか。

ホモ・サピエンスに関する探究は今後ともつづきます。



▼ 引用文献
『ホモ・サピエンス』ニュートンプレス、2015年11月16日
Newton ホモ・サピエンス: 圧倒的なヒトの頭脳。そのしくみは?