自然環境の保全には、人間の手をいれないで本来の自然をそのままのこす方法と、人間の手をいれる人為的保全の2通りの方法があります。


自然環境復元協会編『写真で見る自然環境再生』(オーム社)は、自然環境の再生あるいは復元の事例が「再生前→再生後」の複数の写真を見てわかるようになっています。以下のような具体的な事例が地域ごとテーマごとに掲載されていて、自分が暮らしている地域でも参考になるようなことが見つかります。


目 次
北海道編
1 魚道の思想 -魚類が安心して暮らせる河川環境づくり-
2 石狩川に河畔林再生の取組み -蛇行河川の豊かな生態系を復元する試み-

東北編
3 不毛の原野から多自然な環境へ -岩手県小岩井農場120年の歩み-
4 岩手県宮古発・水産高校生の素朴な発想からの環境貢献 -うちの川は本当にキタナイのか?-

関東編
5 地域資源の循環で里山と町がよみがえる -栃木県茂木町のユニークなリサイクルシステム-
6 伝統的な谷津田はヒトと生き物の里 -千葉県における原風景の保全・復元-
7 ゴミの島が自然の力で夢の島へ -東京の下町で憩いの演出-
8 団地の森づくり30年 -町山を住民とともにつくった環境再生医の物語-
9 道路法面にふるさとの植生を! -こどもたちも参加する景観づくり-
10 横浜発・よみがえれヨシ原 -荒廃した人工堤防を緑のベルトへ-
11 生物多様性を谷戸が守る -神奈川県恩田の谷戸住民の取組み-
12 金沢八景・海浜風景150年の対話 -横浜唯一の塩性湿地,野島水路の今昔-

中部編
13 よみがえった荒廃棚田-標高差150mの伊豆石部棚田-
14 静岡発・町山再生物語-竹林化した町山を市民の集う公園に-
15 住民総出でつくる棚田ビオトープ-生物多様性と文化的景観-
提言1 自然と文化をはぐくむ 森林再生のすすめ
提言2 間伐材を多使用した快適住宅

近畿編
16 生き物を呼ぶ わくわく保育園の庭づくり-ちょっとのリスクを乗りこえよう-
17 すみ場を失った希少種ヒメタイコウチを救え-代償としての生息湿地の再生-
18 神戸発・学校ビオトープ-命をいつくしむ和みの空間づくり-
提言3 わらの家とつながりの再生-森と田と人の暮らしの循環-

中国編
19 耕作放棄水田の再生とそのフォローアップ -湿地ビオトープと生態系ネットワーク-

四国編
20 松山発・よみがえる豊かな泉のネットワーク -農を支えた水路網の再生-
21 自然石による水流の制御と川の多様性の回復 -再生した淵にアマゴが大集合!-

九州編
提言4 ただの風景の発見-百姓の仕事を通して語る方法-
付録 自然環境復元協会と環境再生医


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たとえば北海道チエンベツ川では治山ダムに魚道をつくりました
 
日本の河川にはいたるところに治山ダムができています。これは、豪雨のときの水災害防止や治山のために役立ちますが、その一方で川における魚の行き来は遮断してしまいました。その結果 生態系が破壊されてしまいました。そこで北海道チエンベツ川では治山ダムを改修して魚道をつくる工事をおこないました。すると23年ぶりに魚が遡上してきました。産卵場所も確認され、生態系が回復しつつあります。


 

千葉県では、里山を再生させるプロジェクトがすすんでいます。里山とは、田畑・河沼・雑木林などが複合的に一体になった領域で、集落の周辺部にひろがっています。

集落で暮らす人々は自然環境を改変し、その恵みを ながいあいだ利用してきました。水田にみられる連続的な水環境の創出、森林管理、節度ある資源利用などを実現し、生物多様性は疲弊することなく高いレベルに維持されてきました。里山は、資源・エネルギーの循環システムが確立した持続可能な生態系モデルでした。人々の暮らしが自然環境と調和したゆたかな文化がはぐくまれてきました。



 

自然環境の保全には2通りの方法があります。ひとつは人間の手をいれないで本来の自然環境をそのままのこす方法です。もうひとつは魚道や里山のように人間の手をいれて保全する人為的保全です。この二つの方法の違いを明確に区別して計画的に保全をすすめていくことが大切です。
 
たとえば里山は、人の手が入った人為的保全の地域の典型です。一般的には里山のように、集落の周辺領域では人為的保全をおこない、さらにその外側では人の手をいれない本来の自然をのこすようにします。人為的保全の領域は集落と本来の自然環境とのあいだに位置して緩衝帯としての役割も果たします(下図)。

160124 人的保全
図 集落の周辺部では人為的保全をおこない、
その外側では本来の自然環境を保全する


上図のように、集落(人間)と自然環境とのあいだには相互作用があり、人間と自然環境とはやりとりをたえずしています。自然環境から人間への作用はインプット、人間から自然環境への作用はアウトプットとよんでもよいでしょう。インプットとアウトプットの両者に注目することが大事です。

このような相互作用のつみかさねにより、人間と自然環境とが調和したゆたかな文化がはぐくまれるとかんがえられます。

 
▼ 引用文献
自然環境復元協会編『写真で見る自然環境再生』オーム社、2011年1月20日
写真で見る 自然環境再生