『気候帯でみる! 自然環境〈4〉冷帯・高山気候』(少年写真新聞社)の後半では高山気候をとりあつかっています。
目 次高山気候の気候区分高山気候の植物高山気候の動物高山気候の農業鉱山気候の都市エクアドル キトのくらし中国・チベット自治区 ラサのくらし

高山気候は、標高の高い地域に特有のすずしい気候です(注1)。気温は、標高が100m高くなるごとに0.6〜0.7℃さがります。
気温が低くなると水蒸気量も減るため、標高が高くなるにつれて高山地域では降水量が少なくなる傾向があります。また水蒸気や空気中のちりが少ないので晴れた日には、地表にとどく太陽光(日射)が強く、多くの紫外線がふりそそぎます。
標高が高くなるにつれて気圧が低く酸素が少なくなるので普通の人が高所にいくと高山病になります。
■ 高山気候の植物
高山気候の植物には垂直分布が見られるのが特徴です。
たとえばネパールのヒマラヤ山脈では標高が上がるにつれて次の分布が見られます。
落葉広葉樹林→照葉樹林→針葉樹林→(森林限界)→低木林や草地
エクアドルのアンデス山脈では次の分布が見られます。
熱帯雨林→常緑樹林→雲霧林→(森林限界)→低木と草地→イネ科を中心とした草原
森林限界より上には、きびしい環境に適応した非常に特徴的な高山植物が生えています。
- ヒマラヤ山脈:メコノプシス・ホリドゥラ(ヒマラヤの青いケシ)、レウム・ノビレ(セイタカ・ダイオウ)など
- アンデス山脈:プヤ・ライモンディなど
- ヨーロッパ・アルプス:セイヨウウスユキソウ(エーデルワイス)、アルペン・ローゼ(アルプスのバラ)など
■ 高山気候の動物
気象条件がきびしく餌が少ない高山気候の地域では動物の数はかぎられていますが次のような動物が生息しています。
- ヒマラヤ山脈:ユキヒョウ、アネハズルなど
- アンデス山脈:ビクーニャ、アンデスコンドルなど
- その他の高山地域:オジロライチョウ、ナキウサギ、シロイワヤギ、アイベックスなど
■ 高山地域の農業
夏もすずしい高山気候では独特の農業が発達しました。
- アンデス高地の段々畑(アンデネスとよばれる):それぞれの標高(気温)にあわせて家畜(リャマやアルパカ)の飼育、トマト・カボチャ・トウモロコシ・トウガラシなどの栽培がおこなわれています。
- エチオピアの農業:コーヒー、テフ(エチオピア原産のイネ科の穀物)、トウモロコシ、ソルガム、ゴマなどを栽培しています。ウシやヒツジやヤギなどの牧畜もおこなわれています。
- チベット高原の農業:オオムギ(ハダカムギ)やコムギなどの栽培がおこなわれています。ヤクやヒツジの牧畜もおこなわれています。ヤクは「高原の舟」ともよばれ荷物の運搬に利用されるほか、その肉や乳は食料に、皮や骨・角は衣服や住居に、ふんは燃料にされるなど無駄なく利用されます。
■ 高山気候の都市
次の都市が紹介されています。
- エクアドル、キト
- 中国・チベット自治区、ラサ
キトは、赤道直下に位置するにもかかわらず標高が2800mをこえるので温暖でしのぎやすい気候です。さまざまな種類のトウモロコシが食べられています。ジャガイモやタマネギなどを牛乳と一緒に煮込んだ「ロクロ」が代表的な料理です。クイ(テンジクネズミの一種)やウサギの肉は貴重なタンパク源です。
ラサは、標高が約3700mであり、乾燥した気候です。「1日のうちに四季がある」といわれるほど昼と夜の気温差が大きいです。
ラサでくらしているのはチベト族です。丈の長い襟を前でななめにあわせて着る「袍」(ほう)とよばれる上着を着ています。袍の上から腰帯をまき、女性はその上からエプロンのような前掛けを身につけます。太陽からのつよい紫外線をさけるためにフエルトや毛皮の帽子をかぶることもあります。
チベット族の主食は「ツァンパ」です。オオムギ(ハダカムギ)のつぶをいって粉にしたものに水や茶をくわえて手で練って作ります。また、茶葉にヤクのバターと塩をくわえてつくる「バター茶」を飲む習慣があります。その他、コムギからつくる「トゥクパ」「モモ」、ヤク肉、ヤクチーズなども独自の食べ物です。
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以上のように高山地域でくらす人々は、独自の農牧業・料理・衣服などつまり独自の生活様式を発達させて自然環境(高山気候)に適応し、一方で自然環境をたくみに利用して生きていました(下図)。

図 高山地域のモデル
自然環境から人々への作用・流れはインプット、その反対の人々から自然環境への作用・流れはアウトプットであり、インプットとアウトプットの間にはプロセシングがあります。人が生きるということは〈インプット→プロセシング→アウトプット〉をくりかえすことにほかなりません。
こうして、自然環境と人々との間のやりとりにって独自の生活様式が発達してきました。独自の生活様式はその地域や民族の独自の文化とよびかえてもよいでしょう。人々は、独自の文化を介して自然環境に適応し、また自然環境を利用して生きてきたのです。文化には、自然環境と人々とを介在する役割が本質的にあるとかんがえられます。モデルであらわすと上図のようになります。このようなモデルをもつことにより、一見複雑に見えるその地域の民族・文化・自然環境を統合的に整理し端的に理解することができます。
たとえば外国旅行に出かけて地元の料理を食べたりするときに、上記のモデルを意識してみるとあらたな発見がきっとあるにちがいありません。
▼ 引用文献
こどもくらぶ著・高橋日出男監修『気候帯でみる! 自然環境〈4〉冷帯・高山気候』少年写真新聞社、2013年2月22日
気候帯でみる!自然環境〈4〉冷帯・高山気候 (気候帯でみる! 自然環境)
▼ 注1
ケッペンの気候区分には高山気候はありませんでしたが、アメリカの気候学者トレワーサによって標高が影響する特徴的な気候として高山気候がしめされました。このため、ケッペンの気候区分と高山気候とは分布が重複する地域があります。
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