『気候帯でみる! 自然環境〈1〉熱帯』(少年写真新聞社)は『気候でみる! 自然環境』シリーズの第1巻です(注1)。植物園の温室などで熱帯植物を観察したり、動物園で熱帯の動物を見たり、あるいは熱帯地方を旅行したりするときに本書の内容を予備知識としてもっているとたのしみが倍増します。子供むけの本ですが大人が見てもおもしろいです。
目 次熱帯の気候区分熱帯の気象災害熱帯の植物1 熱帯雨林熱帯の植物2 サバナ熱帯の動物1 熱帯雨林気候熱帯の動物2 サバナ気候熱帯の農業1 焼畑農業熱帯の農業2 稲作熱帯の農業3 プランテーション農業熱帯の都市1 ブラジル マナウスのくらし熱帯の都市2 バングラデシュ ダッカのくらし熱帯の都市3 タンザニア ダルエスサラームのくらし熱帯の都市4 オーストラリア ダーウィンのくらし

気候とは、毎年くりかえす天気の特徴のことをいいます。さまざまな気候の特徴をもった地域が世界各地に存在し、おおまかにいくつかの「気候帯」にわけられています。もっともひろくつかわれているのはドイツ人の気候学者であるケッペンが考案した気候区分であり、生えている植物(とくに樹木)の種類に注目し、気温と降水量をもとにして、「熱帯」「乾燥帯」「温帯」「冷帯」「寒帯」の5つの気候帯にわけられています。
*
熱帯は、赤道付近に集中して分布します。1年を通じて気温の高い地域であり、ケッペンの気候区分では「もっともさむい月の平均気温が18℃以上」とされています。
■ 熱帯気候は次の2つにさらに区分されます。
- 熱帯雨林気候:1年を通じて大量の雨がふります。
- サバナ気候(注2):雨季と乾季とがはっきりわかれています。
■ 熱帯の気象災害としては次があります。
- 洪水
- 干ばつ
- 熱帯低気圧・台風・ハリケーン・サイクロン
■ 熱帯の動植物としては次のようなものが紹介されています。
熱帯雨林気候
- 超高木層:鳥や虫が多い
- 高木層:オラウータン、コモンリスザル、ナマケモノ、コアリクイ、ジャガー
- 地表層:アグーチ、ラッパチョウ、カピバラ
これらは高さによって棲み分けています。
サバナ気候
サバナ気候
- キリン、ジェレヌク、イボイノシシ、ゾウ、シマウマ、クロサイ、ダチョウ
- ライオン
■ 熱帯の農業には次の形態があります。
- 焼畑農業(注3)
- 稲作
- プランテーション農業
プランテーション農業とは、ひろい農地で一種類の農作物だけを大量に生産する農業のことです。サトウキビ・コーヒー・カカオ・天然ゴム・バナナなどが栽培されています。
■ 熱帯の都市とそこでの人々のくらしについて紹介しています。
- ブラジル、マナウスの人々のくらし
- バングラデシュ、ダッカの人々のくらし
- タンザニア、ダルエスサラームの人々のくらし
- オーストラリア、ダーウィンの人々のくらし
たとえばタンザニアのラルエスサラームでは、トウモロコシやキャッサバの粉を水でこねてつくる「ウガリ」という料理が主食として食べられています。おもなおかずとなるのは野菜の入ったトマト味のスープである「ムチュジ」です。
*
以上のように熱帯地域は実に多様な世界になっていますが、次のモデル(模式図)で端的にあらわすことができます(下図)。

図 熱帯地域のモデル
熱帯地域には、マナウス・ダッカ・ダルエスサラーム・ダーウィン、そのた多数の都市が存在し、そこではたくさんの人々が自然環境(熱帯気候)に適応しながらくらしています。都市の周辺には耕作地がひろがり、焼畑農業・稲作・プランテーション農業などがおこなわれています。これらの農業は、熱帯の自然環境(熱帯気候)をたくみに利用していとなまれています。
このような自然環境と人々とのあいだには相互作用があり、自然環境から人々への作用は「インプット」、人々から自然環境への作用は「アウトプット」とよぶことができます。
インプットにより、食料やその他の物質・エネルギーあるいは情報が自然環境から人々のなかへ入ってきます。いわゆる「自然のめぐみ」といわれるものです。しかし不利益なインプットもあります。気象災害がそれです。不利益なインプットは人々のくらしを破壊します。
他方のアウトプットでは、人々は不要になった物質を外部に排出したり、あらたに耕作地を開拓したりして自然環境に作用をあたえています。近年、焼畑農業やプランテーション農業が大規模になり自然環境が破壊されています。これはアウトプットが巨大化し強力になって調和がくずれたことにほかなりません。
*
熱帯地域は多様な世界であり一見複雑そうに見えますが、このようなモデルをえがくことによってこの地方のさまざまな情報を統一的にとらえることができます。
モデルは、多様な情報を統合し全体の見通しをよくするためにとても役立ちます。
▼ 引用文献
▼ 注1
『気候でみる! 自然環境』シリーズは、『熱帯』『乾燥帯』『温帯』『冷帯・高山気候』『寒帯』の全5巻からなっています。
▼ 注2
サバナ気候はサバンナ気候とよばれることもあります。
▼ 注3
焼畑農業とは、森の一部を燃やし、あとにのこった灰を肥料などにしておこなう農業です。熱帯の土地はもともと酸性度が高く、農作物をそだてるには適していませんが、焼畑をすると灰が土を中和させまた肥料にもなるためイモ類や穀類やバナナなどがそだつようになります。熱によって、害虫や病原菌をへらす効果もあります。焼畑農業は、数年間おこなうと雑草が増えたり土がやせたりして農作物がそだちにくくなるので別の土地に移動します。これを繰り返して10〜20年後にふたたび元の土地にもどってきます。しかし近年は、人口増加などにより焼畑農業を短期間でくりかえすようになり森が破壊されています。
▼ 関連記事
モデルをつかって気候帯をとらえる - 熱帯(『気候帯でみる! 自然環境〈1〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 乾燥帯(『気候帯でみる! 自然環境〈2〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 温帯(『気候帯でみる! 自然環境〈3〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 冷帯(『気候帯でみる! 自然環境〈4〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 高山気候(『気候帯でみる! 自然環境〈4〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 寒帯(『気候帯でみる! 自然環境〈5〉』)-
気候帯で地球をとらえなおす - 気候帯(まとめ)-モデルをつかって気候帯をとらえる - 熱帯(『気候帯でみる! 自然環境〈1〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 乾燥帯(『気候帯でみる! 自然環境〈2〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 温帯(『気候帯でみる! 自然環境〈3〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 冷帯(『気候帯でみる! 自然環境〈4〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 高山気候(『気候帯でみる! 自然環境〈4〉』)-
モデルをつかって気候帯をとらえる - 寒帯(『気候帯でみる! 自然環境〈5〉』)-